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[2/4] 楽勝街道には下り坂しかない

 転移後の異世界はまさにヌルゲーだった。最初からこの世界最強の装備を与えられていたので当然である。


 ちなみに異世界であってもゲームの世界ではないので、ステータスとかレベルという概念は存在していないようだ。まぁ大した問題じゃない。時間を巻き戻せば、どんな敵にも楽勝だぜ。


「今回も余裕でしたね~!」

ゴブリンの死骸を見下ろしながら飛び回っている妖精さんがぼくに話しかける。


 このゴブリンはある村の女の子をさらおうとしていたのだ。その女の子は先程ぼくが取り返し、少し離れた場所に隠れさせている。


「そうだな!」

と妖精さんに元気よく返事しながら僕は妖精さんとハイタッチをしようとした。妖精さんとのスキンシップは大切だ。と、そのとき──


 ドガッ、ボカッと自分の後頭部に鈍器が命中したのを感じる。別のゴブリンが数匹隠れていて棍棒で殴りかかってきたらしい。アンブッシュというやつだ。


 頭には兜をつけていたが、完全に無意識な方向からの攻撃だったので痛かった。停止中の自動車への衝突事故と一緒で、むちうちになってしまう危険があった。ぼくはそれが結構つらいことを知っていた。


「やりなおスイッチ!」

賢明なぼくは心の中でそう唱え、時間を巻き戻すことにした。


 能力を発動すると自分の周りが暗闇に包まれ、どこかの部屋のようなところに移動する。ここを「やりなおしの部屋」とぼくは呼んでいた。


 普通の部屋のように、机と椅子などがあるが、壁全面には動画サイトのサムネイルのようなものがズラッと表示されている。これを使って好きな時間を選択すれば、その時間に戻れるってわけ。部屋の広さも自由自在だ。


 素敵な能力だろ? あげないけどな。


「よし、30秒前! ここに決めた!」

僕は先程ゴブリンを倒した瞬間を選ぶことにした。


「もどれ~~。時間っ!」

と唱えると意識が一度消え、過去の自分と今の自分が混ざる感覚が頭に広がる。


 完全に意識が融合されると、眼の前にゴブリンが倒れていた。


 先程見た光景と同じように、

「今回も余裕でしたね~!」

と妖精さんが飛び回っている。


 ぼくはバッと素早く後ろを振り向いて、ちょうど飛びかかってこようとした二匹のゴブリンを視界に捉える。


  飛びかかってくる最初のゴブリンを蝶のようにサッと避け、蜂のように華麗にズバッ――。


 この世界最強の剣で一匹目のゴブリンを捉えたあと、返す剣で二匹目のゴブリンも真っ二つにする。


「ふぅ……」

ぼくは剣を鞘に収めながら安心して息を吐き出した。


「さすがミチオさま!」

改めて妖精さんとハイタッチをした。


 隠れていた女の子がぼくの方に駆け寄ってくる。


「ありがとうございます!」

女の子は深々と頭を下げた。


 ぼくの好みからすると少し年齢が低いが、惚れられちゃったらどうしよう。最強になってもぼくの悩みのタネはつきない。

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