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鳥かごの鍵  作者: 多景千紗
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青い鳥


先に外に出ておいてくれ、とソフィアに伝えてフェルは店主に近づいた。

「さっきの話だけど…。」

「さっきって、あれか?嬢さんに見惚れてたやつか?」

ニヤニヤ笑いにぷつんと何かが切れそうだ。

「もう一度殴られたいなら、それでもいいが?」

「はいはい、怒んなって。にーちゃん短気だな。」

店主は呆れたように腕を組んだ。

「十年前の話なら俺には話せないよ。俺だってこの場所を手放さなきゃならないような危険は冒したくない。」

「それは話せば危険があるということか。」

となれば、他の元貴族とやらを探して同じことを聞いたとしても、簡単には口を割らないだろう。

「というか、実は俺も詳しくは知らない。知ってるやつなんて、もういないかもしれないぞ。人数を考えても、貴族を理由も説明せず城から追放なんて、誰にでもできることじゃあないだろう。何も知らない奴が追放なら、何か知っている奴は、一体どうなるんだろうな。」

フェルは、眉間を押さえた。

思ったより、事は重大なようだ。

それが分かっただけでも十分な価値がある。

「ありがとう。それなりに助かったよ。」

店主は肩を竦めた。

ふざけたように、ちょいちょいと手で招いて、近づいてくるフェルの耳元に、こっそりと教えてやる。

「これはとっておきの情報だが、三番街に小さな鍵屋がある。そこに行ってみるといい。」

くくっと楽しそうに笑う。

「どうでもいいけど、あの女の子を危険に巻き込むのは、感心しないぞ。あんた、猫かぶってるようだしな。騙すのは良くない。」

「あの子とは本当に何もないよ。昨日出会ったばっかだし。てか、あんたにだけは騙すな、とか言われたくねーや。」

先ほどの返された衣装代を入れた袋を卓に放る。

「情報の分だ。騙してくれた分は引いてある。」

店主はすっとぼけた。

「騙す?」

「この店では酒のことを茶と言うのか。」

「美味かっただろ?」

「不味かった。」

そう言って、フェルは店の扉を閉めた。





店から出たソフィアは、太陽の光に目を細めながら、改めて人の多さに呆然としていた。

「店の前で待ってろ、と言っていたけれど…。」

これでは動きたくても動けないと思う。

自分があの人々の中へ突っ込んでいったとしても、弾き返されるか、流されるだけだ。

しばらく店の前で立ちすくんでいると、自分の後ろから扉が開く音がした。

「不味かった。」

そう言ってフェルは扉を閉める。

ソフィアは不思議に思った。

「何か、頂いていたの?」

「ああ、まーそんなとこ。すごい人の量だなー。ソフィアが動かないでいてくれてよかった。さすがに俺もこの中からは見つけることできないし。」

くしゃりとソフィアの髪を掻き回す。

ソフィアはむっとした。

さすがに、子供扱いされているというのは分かる。

髪もぐしゃぐしゃになってしまった。

一言言ってやろうと口を開いたがーー。

「あ、そうそう。その服本当によく似合ってるよ。…さっき冗談とかだと思ってただろ。」

声が生まれず、魚のようにぱくぱくと繰り返すことになった。

確かに先ほども『可愛い』とかなんとかぬかしていたが、フェルの言う通り、お世辞だろうと聞き流していたのだ。

ソフィアは困ったように、ありがとう、と礼を言う。

何度言ってもらっても、その言葉はお世辞だとしか受け取れない。

(だって、自分のことは自分がよく分かっているもの。)

どう考えても、自分は可愛いとか美人だとか言われるような人間ではない。

「また、信じてないだろー。…まぁいーや。ちょっと行きたい場所ができたからついてきてくれるかー?」

こくりと頷く。

「どこに行くの?」

「あー。鍵屋?とか言ってたかな。」

鍵。その単語はソフィアに大事なことを思い出させた。

ぶんぶんとフェルの身体を揺する。

「うわっ!どうしたソフィア。」

「鳥かご!私が持ってた青い鳥の入った鳥かごは⁉︎」

フェルはあー、と思い出す。

そういえば、ソフィアが倒れている時に近くに落ちていて、それでーー。

「確か、泊まってる宿の部屋の端っこに放って置いた気がする。それがどうしたんだ?」

ソフィアは俯いた。

「あの子も一緒に家から逃げ出してきたのだけれど、鍵が開かなくて。逃がしてあげたいの。」

鳥かごに入れられて、飛べない鳥。

ソフィアが開放してあげなければ、その鳥はいつまでたっても孤独だ。

「鍵屋って鍵がなくても、開けてくれる?」

「あーできるんじゃねーかな?」

フェルはソフィアの様子に、行くところが本当に『鍵屋』かわからないとは言えなかった。

取ってくると言って走り出そうとするソフィアの長い髪を引っ張る。

こっそりと便利な長さだなと思った。

「待て待て。せめて人が少ない道に入るまでは一緒に行く。」

はぁと溜め息をついてソフィアの手を掴み、人混みを掻き分けた。

「ほら、ここまできたら大丈夫だろ。」

なんとか人の中を進むと、先ほどの大通りから外れた、人がほとんどいない道にまで出た。

「俺はここで待ってるから。」

こくんと頷き、ソフィアは長い髪を振り乱して走り出す。

まあ、フェルから見れば、走っているとも言えない速さだったが。

転びはしないか、とはらはらしながらも必死で走る少女の後ろ姿にくすりと笑った。


刹那。


フェルは妙な気配を感じてソフィアの走って行った方とは逆の方へ顔を向ける。


ふわり、とフェルから少し離れたところを何かが横切った。


ーーソフィアの走って行った方に向かって。






その瞬間、フェルは妙な気配の正体を理解した。





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