表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dual Moon Side Story  作者: ヴィセ
9/9

テュリの受難



「テュリ、こっちこっち!」

 

 子供たちがテュリに大きく手を振って招く。 

 先ほど、子供だけで「木の実を取りに森へ行く」と言う姉妹に出会ったテュリは、

「子供だけで行くと危ないよ?」

 と、二人についていく事にしたのだった。


 子供たちは森に入っていくとポイントをよく知っているらしく、先へ先へと進んでいく。

「もう、待ってよー」

 そうテュリが言いかけた時、「キャー!」という子供達の悲鳴が聞こえてきた。


 慌てて子供たちの下へ駆けつけると大型の野犬が二匹、子供達に向かって低くうなっている。

「グルル…」

 犬たちは上唇をめくり上げ、鋭い犬歯を誇示していた。


「あっ!テュリー!」

 テュリが来たのに安心してか、子供たちは犬に背を向けテュリに駆け寄って行く。

 が、それは同時に犬に対しては絶対にしてはいけない事だった。

「危ない!!」

 襲いかかる犬たちからとっさに二人の子供をかばうテュリ。


(もうダメか?)と思ったその時、森中に“狼”の咆哮が朗々と響き渡る。

 野犬たちはその声を聞くと襲いかかるのを止め、立ち止まった。

 そして不安そうにあたりを見回すと、足早に森の奥へと逃げるように駈去って行く。


「助かった…?」

 ホッとしたテュリはその場に座り込んでしまった。


「大丈夫か!?」

 聞きなれた声を先頭に、犬たちが去ったのと逆の方向から数人の村の男たちがやってきた。

「ラドゥ?」

 子供たちも知っている大人たちが来たのに安堵したのか、大声で泣き出す。


「怪我はないか?」

「大丈夫。子供たちにも怪我はないわ」

 駆け寄ったラドゥが見たテュリの顔色は真っ青だった。

「野犬たちを相手によくやったな」

 

「私一人なら木の上にでも逃げればいいけど、二人はそうもいかないもの…。二人を置いて…逃げ…る…」

 そう言いながら、緊張が解けたのかテュリは気を失ってしまった。




「テュリが倒れたって?」

 ヴィーザは出先から帰るなりテュリが倒れたことを聞き、ラドゥがテュリの倒れた理由を説明する。


「…という訳で、野犬を追っていたらその先で子供の悲鳴が上ったので、とっさに変化して犬を追い払ったんだが…」

「よほどショックが大きかったのか、ずっとうなされて…可哀相にテュリ…」

 サヴァンも寝込むテュリを心配する。

「よほど恐かったんだろうな…」

 ヴィーザは心配そうに奥の部屋を見やる。


 テュリが寝ている部屋にヴィーザが入っていくと、

「う…犬…キライ…」「…ヴィーザ…助…け…」

 と、かすかにうわ言を言いながら、テュリは眠っていた。


 ヴィーザはテュリの枕もとに屈むと、テュリの目元に浮かぶ涙を指で拭う。

「テュリ…二人をよく守ったね」

 そう言ってヴィーザがそっとテュリへと顔を寄せると、サラサラとテュリの頬に銀の髪が流れ落ちた。


 人の気配にヴィーザが顔を上げると、戸口にもたれてラドゥがクスクス笑っていた。

「見ていたのかい?」

 照れくさそうに笑うヴィーザ。

「可愛い『妹』が頑張ったんだ。ちょっとご褒美を、と思ってね」

「しかし、ヴィーザ。そのご褒美はテュリが起きている時でないと可哀相だぞ?」


 二人の話す声にようやくテュリは目を覚ました。

「あれ…?ヴィーザ?」

 なぜここにヴィーザが居るのか不思議そうだった。

「ラドゥから活躍は聞いたよ」

 戸口に立つラドゥを見て、「…あ、そうか…あの時…」とテュリはようやく思い出したようだった。


「ずっと恐い夢を見ていたわ…。犬に追いかけられてヴィーザに助けを求めていた。でも、何か最後にとてもいい夢に変わったような気がする…?」

「ふうん…。どんな?」

 ヴィーザは何気ない様子で聞き返す。


「ん…とね…」と、考えてテュリは顔を赤くした。

(夢なのにヴィーザの唇の感触が残ってる??)


「どうしたの?」

「え~っと…」

 しどろもどろになり、テュリは慌てた。


 そんなテュリを見て「そうそう、テュリをここまで運ぶのはかなり重くて苦労したぞ?」とラドゥがからかう。

「ご、ごめんね!重くって!」と、思いきりふくれっ面をするテュリ。

「やっといつものテュリにもどったな。ははは!」

「もう、大丈夫だね」


 笑い出すヴィーザとラドゥに、ふくれていたテュリもつられて笑い出した。


Fin



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ