~ 魔剣ムーンライト ~
「うわっ……。お、重い……」
立てかけてあったムーンライトが弾みで倒れたのを、マージュは必死になって起こそうとしていた。
「そんな事はないと思うが……」
見かねたラドゥがヒョイと手助けして剣を元に戻す。
「やっぱりラドゥさんは力があるなあ。その点僕はだめですね」と、頭を掻きながらマージュは苦笑いをしていた。
「そうかな。普通の剣と同じぐらいの重さだと思うよ?」
持ち主であるヴィーザが不思議そうにムーンライトを鞘から抜くと手にとり、軽く振った。
そうやって居るのを見ると、極普通の剣並みの重さに見える。
「でも持ち上がらなかったぐらい重かったんですよ?」
マージュは納得がいかない顔である。
「ではこの剣はどうだい?」
側にあったムーンライト以外の剣をヴィーザは手に取り、マージュに持ってみるよう勧めてみる。
「うーん。ちょっと僕には重いけど、普通に扱えそうです」
マージュは剣もって構えて見せた。
「マージュ、私にはその剣よりムーンライトの方が軽く感じているんだよ」
「えっ!僕と逆なんですか?」
ヴィーザの意外な言葉にマージュは驚いていた。
ラドゥも、「私も剣はあまり扱わないが、ムーンライトは大きさのわりに扱いやすいぞ」とヴィーザと同じ答えだ。
「なぜなんでしょうか……」
ヴィーザの手にあるムーンライトを眺め考えるマージュ。
「ねえ、マージュ。私にも持たせて」
傍らで見ていたテュリはマージュの持っていた剣を手渡してもらう。
「何~?これ重いよー!みんなこんなの振り回して平気なの?」
テュリは剣を持っているのもやっとのようだった。 腰が引けて足元がふら付いている。
「そうだテュリ、ムーンライトを持ってみてよ」
マージュは何か思ったらしく、テュリにムーンライトを持ってみるよう頼んだ。
「え~、普通の剣であの重さなんでしょ?マージュが持てない剣、私が持てる訳……」
そう言いながら今度はヴィーザから手渡されたムーンライトを手にしたテュリは、声にならないほど驚いた。
「!?……か……軽いわ……!」
「やっぱり……」
その言葉を聞いてマージュは何か納得がいったようだった。
「まるで羽で出来た剣を持っているみたい♪」
テュリは手にした剣を軽々と振って見せた。 本当に重さなど感じさせないみたいだ。
「見て!指一本でも持てちゃうよ~」
無邪気にはしゃぐテュリ。
「ムーンライトは持つ者の能力に合わせて変化する剣。テュリの身軽なところが反映されて、テュリに剣の重さを感じさせないのかな……」
ヴィーザは嬉しそうにしているテュリを見てこう判断したようだ。
「やはりそうみたいですね。ムーンライトは“魔剣”だから、人間の僕が持つと重くて持てないんでしょうね」
マージュも同意する。
「ねえ、こんなに軽い剣でだったら剣技の練習してみようかな?」
自分で扱える事が嬉しいようでテュリはこんな事を言い出した。
「ヴィーザ、教えて!」
「テュリには弓の方が合っていると思うんだが……?」
ヴィーザはあまり乗り気ではなさそうだ。
「それにムーンライトがいつも手元にあるとは限らないぞ」
ラドゥがやんわりと指摘する。
「あっ、そうか。ヴィーザの剣を貰うわけにいかないものね」
テュリは持っていたムーンライトをヴィーザに返した。
「でも面白そうなんだけどな……?」
ちらりと上目遣いにヴィーザを見るテュリ。
「………」
ヴィーザは何も言わず、受け取った剣を鞘に収めている。
「ねえ、ちょっとだけ……!」
「……」
ヴィーザの答えはなかった。
「……どうしてもダメ?」
「……遊びでやるものじゃないんだよ?」
そう言うとヴィーザは少し厳しい目でテュリを見やる。
「ちゃんと練習するから……」
両手を顔の前で合わせ、テュリは必死にお願い、と繰り返していた。
「ふぅ……まあ、覚えておいて損はないからね。今度少しだけ、だよ」
とうとう根負けしてヴィーザは約束させられた。
「やったー!」
テュリは喜び、飛び跳ねると勢いよくヴィーザに抱きついた。
首に思いっきり抱きつかれたヴィーザは「テュリ!く、苦しいよ!」と苦笑いしている。
「だって嬉しいんだもん♪」
「ヴィーザさんはテュリに甘いですね」
「本当だ」
マージュとラドゥはそんな2人見て、クスクスと笑い出した。
~ 魔剣ムーンライト ~
― Fin ―