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Dual Moon Side Story  作者: ヴィセ
2/9

~ 深き眠り/前編 ~



「ヴィーザ?」


 テュリは椅子に座ったまま、半分眠ってしまっているヴィーザを揺り起こす。


「あ……。ごめん。何だったかな?」


 返事はするものの、はっきりと起きている様子ではなかった。


「やだ、ちゃんと起きてよ~」




 その2人のやり取りを隣の部屋で聞いていたラドゥは「ふむ。そろそろそういう時期か?」と呟くと、ヴィーザの許へ行った。


 「ほら、立てるか……?」

 

 半分以上寝掛かっている友人に声を掛ける。


 そして眠気で足元のふらつくヴィーザを支えながら、ベッドのある部屋へと連れて行った。


「ん……すまない、ラドゥ……。今回は急に……来た…な……」


 そう言ってベッドに倒れこむと、ヴィーザはたちまち深い眠りに落ちてしまった。




(いつもなら眠る1,2日前から兆候があるのに、今回は『大魔法』の件があったりで疲れが溜まっていたのか、急激に眠ってしまったな……)


 ラドゥは眠りに就いたヴィーザを見ながら昔を思い出していた。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 これは まだ ヴィーザとラドゥが2人で旅をしていた頃の話




 日中、あまりに夏の日差しが強かったため二人は木陰で休んでいた。


 座りながらヴィーザは(うとうと)と眠りかける。 今朝からずっとこの調子だ。


 もうすぐ100年ごとの深い眠りの時期ときがヴィーザに訪れようとしていた。




「後少しで人間の村に着く。もう少し我慢できるか?」と、ヴィーザを気遣うラドゥ。


「ああ……何とか……」


 必死に眠気を振り払おうとヴィーザは頭を振った。


「だいぶん日も翳ってきた。そろそろ行こうか」


 ラドゥは立ち上がり、ヴィーザに手を差し出す。


「うん……」


 そう言ってラドゥの手を取り立ち上がると、ヴィーザは(ぼーっ)としながらも歩き出した。


「眠いのなら寝てもいいぞ。君を背負って行けば済む事なのだから」


「そんな格好の悪いことできないよ」


 力なく笑うヴィーザ。 だが言葉とは裏腹に、足元はかなり危なっかしい。







 夕刻近く、人間の村に2人の魔族が現われた。


 しかし一人はもう一人の背に負われて眠っている様子だった。




(魔族だ!)


(魔族がとうとう現われた!)




 近年魔王が変わった事で、魔族による人間への迫害が多くなり、この村にも「魔族に襲われた」という他の村の情報が数多く入ってきていた。


 村人らは恐る恐る遠巻きに、ラドゥ達が(一人は眠っているが)何かしやしないかと伺っていた。




「この村のおさはどなただ?」


 村の入り口に立ち、ラドゥは大きな声で集まっている人々に尋る。


 突然現われたこの魔族たちは乱暴を働く様子も無く、村長むらおさを捜していた。


「わしがそうですが……。どうなされた?」


 初老のそれらしき人物が人の輪から前に進み出た。


 それを見てラドゥは軽く会釈する。




「すまないがこの後ろで眠っている連れがしばらく眠ったままになるので、ひと月ほど世話になりたいのだが……」


「眠ったまま?…連れ?」


 そう言うと訝しげにしながら村長はラドゥの後ろに回り、広い背中で眠っているヴィーザを見た。




「き、吸血鬼族!?」


 寝息を立て静かに寝ている吸血鬼に、村長も思わず声を高める。



 近隣で暴れまわっている魔族と同じ「吸血鬼族」が現われたことで村は騒然となった。


 恐怖に満ちたざわめきが、ラドゥとヴィーザを包み込む。


 しかし、ここで申し出を断り暴れ出されても困る……。 長は決断を下した。


「……判りました。わしの家が丁度一部屋空いております。そこをお使いください」




 長は先頭に立ってラドゥ達を家へと案内した。


 部屋に入り、ヴィーザをベッドへ下ろしたラドゥを、長は居間の椅子へ座るように勧める。




「お名前をラドゥ殿とおっしゃいましたな。疑うわけではないのですが本当にあちらの方はずっと眠りについたままで?」


 恐る恐ると言った様子で、長の妻が座るラドゥに茶を出してきた。

 

「確かひと月は眠ったまま起きないと思うが、それが?」


 魔族とは言え何もしない自分達への怯え方が尋常ではないと、ラドゥも感じてはいた。




「実は最近この辺りに『吸血鬼族』が現われ、人々が襲われております」


「それでヴィーザを見た村人達が異常に恐れていたのか」


 長が殊更ヴィーザを見て驚いた理由が解り、ラドゥは納得がいった。


「はい。幸いこの村はまだ襲われておりませんが、夜になると襲ってくるのではないかと皆不安で……」


「人間は魔族に手出しできないからな。襲われても逃げるしか手はないのか……」


 長の苦悩を思うとラドゥはため息をついた。


 同時に前王の政策がいかに人間にとって良いものであったか、改めて実感していた。


「しかしこうしてお話をさせていただくと、貴方は他の魔族と少し違うような気がします。お連れの方が起きられるまでゆっくりされると良いでしょう」




 長の話によると吸血鬼族たちは「夜になったら現われる」らしい。


 と言うことは[印](闇の封印)を持たない下級魔族たちが人間狩りを行なっている。


 現王に代わり、人間を庇護する者が居なくなり「待ってました」とばかりに襲いだしているのだろう。


 また、ヴィーザ達“吸血鬼族”は人間を糧にしているところがある。


 故に一番人間から恐れられているのだ。




(このまま何もなければいいが……)


 ラドゥはヴィーザが起きるまでの間、無事に過ごせるよう願った。






 眠るヴィーザを長の家に預けたまま、ラドゥは村の中を見て回る事にした。


 夕陽に照らされ人々は忙しそうに働いている。


 村の様子を見て回るラドゥに、村人は不安げな視線を浴びせた。


 そしてラドゥの鋭い聴覚に人々の囁く声が聞こえてくる……。




(ほら……あれが……)


(長は何故、魔族なんか村に入れたんだ?)


(まさかあの吸血鬼族、寝たふりしてるんじゃ……)






「やだ。これ動かないわよ?」


 不安を訴える声に混ざって困ったような声がラドゥの耳に届く。 すぐ前に居る女性からだった。


 どうも若い二人の女性がなにやら動かそうとしていたが「何か」に引っかかり、まったく動かない様子だ。


 ハンドルを動かす作業に一生懸命で、両名とも後ろにラドゥがいる事に気付いてはいない。


 それを見ていたラドゥが「失礼」と後ろから手を伸ばし、少し力を入れて引くとそれは何事も無かったかのようにあっさりと動いた。


 しかし女性達はいきなり伸びてきた手の持ち主が、噂の魔族だと知ると固まってしまった。


 数度動かし、支障なく動くことを確認するとラドゥはニコリと2人に笑みを向けた。




「……あ、ありがとう……」


 だがラドゥを見て驚いた二人はこの言葉を言うのがやっとだった。




「いいえ。どういたしまして」


 そう言って再び村の中へ歩いていったラドゥを見て二人は、


「ねえ、魔族って言っても全然怖くなかったね」


「うん。それともう一人、眠っていた魔族がいたでしょ?」


「今の彼の背中で眠っていた?」


 と、作業を忘れて話し込む。




「そう。私ねチラッと見たんだけど、なんか怖いっていうより素敵だなって思ったんだ……」


「え?あんたも?」


「やだ、一緒の事思ってたの!?」


 顔を見合わせて笑い出す二人。


「でね、今の彼も……思わなかった?ねぇ」 


「たぶん同じ考えだと思うわ」


 少し頬を染めて二人ともクスクス笑っていた。






 村の入り口に行くと、昼間人がいなかった見張り台に今は人がいるのが見えた。


 ラドゥの姿にギョっとしながらも見張りを続ける。 ラドゥは話を聞くために梯子を昇っていった。




「あわわ……!な、何か?」


 まだ年若い青年が見張り台に上がってきたラドゥを、目を丸くして見ていた。


「少し、いいか?」


「な、な、なんでしょうか?」


 まさかこんな所に上がって来るとは思っていなかったらしく、かなり慌てている。


「最近この辺りを魔族が襲っていると聞いたのだが、いざと言うときはどうやって身を守っているのだ?」


「ああ、それなら……」




 青年の話では以前この村に来た超命族に[魔封印]を描いてもらっており、そこに逃げ込むのだという。


 しかしその頃はまだ前王の時代で魔族が村を襲うことも無かったため、さほど力は大きくはないらしい。


 身を寄せ合えば何とか村人全員が加護を受けられるが、村全体を被うほどではないようだ。


「ふむ。しかし襲われてしまった時、見張りは危険だな」


 話を聞き終わり、ラドゥは見張り台から離れた場所にある[魔封印]が描かれている場所を見る。

 

「……それは仕方が無いですよ、順番で見張ってますからね。襲われたらその時は皆に知らせて、後は一目散に逃げようって皆で言ってますけど」


 青年はハハハと明るく笑った。




「そうか。これから夜に入る。気を付けて見張って欲しい。何かあったら力になろう」


「はい。ありがとうございます」


 初めおっかなびっくりだった青年も、話す内にすっかりラドゥと打ち解けていた。






 下に降りるとすっかり陽も落ちて、夜になっていた。


 長の家に戻りヴィーザの様子を見ると、軽い寝息を立ててよく眠っている。




「夜になっても起きてこられる気配はありませんでしたよ」


 夕食を取りながら、長の妻がラドゥに留守中のヴィーザの様子を報告してくれた。


「本当は初め心配していたんです。あの方が夜になったら起き出すんじゃないかって……」


 今でも気になるのか、給仕しながらチラチラとヴィーザが眠る部屋を見ている。


「これ、失礼だよ」


 長は妻をたしなめた。


「いや、先ほど村の中を回って判ったのだが、皆“吸血鬼族”を恐れているようだ。そこへ偶然とはいえ、同族が現われたのだから心配するのは当然だと思うが?」


 自分は気にはしていない、むしろ当たり前だと、妻に向かってラドゥは微笑んだ。




「申し訳ありません。人間は魔族には逆らえないものですから。わしらも何とかならないかと考えあぐねております」


「そうだな。世話になっている間、私も何か出来る事があれば喜んで手伝おう」




 ラドゥたちが此処に来て、暫くは平穏な日々が続いた。


 だがある夜、とうとう恐れていた事態が起てしまった……




後編へ続く

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