~ ヴィーザって? ~
「ねえ、ヴィーザって吸血鬼族でしょ?」
と、みんながくつろいでいる中、突然テュリが一人離れて本を読んでいたヴィーザに問いかけた。
「いきなりどうしたの?」
ヴィーザは読んでいた本から顔を上げ、テュリの方へ微笑みかける。
「んー、ヴィーザと知り合って大分経つけど、一度も誰かの“血”と吸うとか見たこと無いなって思ったから……。やっぱり吸ったりするの?」
思いがけないテュリの質問にヴィーザは面食らっていた。
「うーーん……。一応、私も『吸血鬼』だからね。ご想像にお任せするよ」
本を閉じると苦笑しながら、在るとも無いとも曖昧に答えた。
「えー!ちゃんと答えてよ~」
そんな答えにテュリは不満そうだ。 そう言われても、と言う顔でヴィーザはテュリを見ている。
「ほらヴィーザが困ってるぞ」
ラドゥが答えに窮しているヴィーザに助け舟を出す。
それを聞いてテュリは質問を変えてきた。
「じゃあヴィーザの活動源て何なの?私と知り合ってから食事もあまり取っていないでしょ?」
テュリは普段から不思議に思っていることを聞いてきた。
生きている以上、何も摂取しないと言う訳には行かないはずだ。
その質問にテュリと同じく、知り合って間もないマージュも「そうですよね。僕も不思議に思っていました」と、隣に座っているテュリとうんうんと大きく首を縦に振る。
「えっ?あ……実はいつも皆からもらっているんだけど……」
非常に答えにくそうに、小声でヴィーザが返す。
「うそー!いつの間に?まさか皆が眠っている間に……?」
そんなそぶりを見せたことがないヴィーザに、テュリは眼を見開いて驚く。
「違うよ、テュリ」
ヴィーザは慌てて手を大きく振って否定した。
「正確に言うと、皆と居るだけで活動源を分けてもらってるって事かな?」
どう説明すれば良いか考えながら答えている。
「良く解らないですね。いったいどうやって……」
話を聞いたマージュもどう受け取って良いか解らない様子だ。
「吸血鬼族が活動源を得るために、直接血を吸うというのは一番形になって表れているので良く判りますが、たしか普段は生物が自然に発する生体エネルギーを吸収していて、それを活動源にしている……でしたね」
考えるヴィーザの代わりにサヴァンが答えた。
「そう!さすがに良く知っているね」
自分が言いたい事を的確に説明されて、ヴィーザは嬉しそうだった。
「これだけの人や魔族に囲まれていると、それだけで皆から十分に過ぎるほどのエネルギーをもらっている事になるんだよ」
言いたいことが伝えられて、ヴィーザはすっきりした表情で付け加える。
「へえ。僕らといるだけで、ですか」
マージュも「それなら普段の寡食も納得がいく」と頷いた。
「だから特に“血”は必要としないんだよ。これで分かって貰えたかな?」
ヴィーザはテュリ達に向き直ると、にっこりと笑った。
「後、食べる食べないは嗜好の問題かな」
「そういえば以前、わたしの“血”を口にしたことがあったな?」
ラドゥも昔を思い出して言った。
「ええと……確かラドゥが怪我をしたときだったかな」
ヴィーザは過去にラドゥが毒を伴う怪我を負ったとき、毒を吸い出すために自らの意思でラドゥの血を口に含んだことがあった。
「あの後、いつも以上に魔力が増していたな」
殆ど毒の血は捨ててしまったにも係わらず、僅かに喉を通った血液がヴィーザの力になったらしい。
「そうだったね。あの時のラドゥの血はものすごいエネルギーになったよ」
ヴィーザもそんな事があったね、とラドゥの話しに相槌を打った。
「というと、人間と魔族のとは違うんですか?」と、マージュ。
「いや、多分、ラドゥが人狼族だからじゃないかな。彼ら人狼族は満月になると計り知れないパワーを持つだろう?その為だと思うよ」
ヴィーザが違いを説明する。
「今度の満月の夜にでも、もう一度試してみるか?」
ラドゥが笑いながらヴィーザに言った。 その眼はどこか悪戯めいている。
「いや、遠慮しておくよ。血は嫌いだからね」
本当に嫌そうな様子で、ヴィーザは肩を竦めながら首を横にする。
『血が嫌い』というヴィーザの言葉に、「吸血鬼族なのに珍しいですね」とサヴァンは意外そうにヴィーザを見た。
今まで血を好みこそすれ、嫌う「吸血鬼族」を聞いた事がなかったからだ。
「でもでも!美少女の首筋にそっと唇を寄せるヴィーザって……一度でいいから見てみたい~!!」
何故かテュリは一人、興奮してる。
「絵になるんだろうな~……はぁ」
そして自分の想像した光景に目を細めてうっとりとしていた。
確かにこの銀の髪を持つ「吸血鬼」が人を襲っても一幅の絵になると思われた。
「でも『美少女』にはテュリがなりたいんでしょう?」
マージュが横に座るテュリにこっそりと聞いた。
「う……そ、それは……」
思いを見透かされたテュリはマージュの足を陰で思いっきり踏みつけた。
「痛い!!酷いよテュリ~」
テュリの行動に気づいるのかいないのか、ヴィーザは話を続けた。
「私は一族の中でも変わり者でね。『ある時』以外はまったくそういった気が起きないんだよ」
そう言ってヴィーザは軽く首をすくめた。 そしてその言葉に隠してほんの僅かだけ、眉を寄せる。
「血を求めて彷徨うなんて、そんな時が来ない事を願いたいな」
あまり深刻に他の皆に受け取られないように、ラドゥはからかうようにヴィーザに笑いながら言った。
「そうだね。私もそうならないよう気をつけるよ」
笑みを浮かべ、そう話を締めくくると、再び読書をすべくヴィーザは本を開いた。
~ ヴィーザって?~
Fin