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低かったのは平均点

必死の説得にもかかわらずカケル結局妹に口を聞いてもらえなかった。その上ハヤテづてに風呂入るからサキが自室に戻るまで自分の部屋から出てくるなとまで言われた。もしかしたら今日の夕飯は得体の知れない何かが出てくるかもしれない。

そんなことを考えながらカケルは登校する。

今日もバスだ。しかしタイミングがずれたのかツボミは乗っていなかった。やや凹みながら教室に入ると三上が見えた。見えただけだ。いつものように話しかけてこない。なぜなら机の上で死んでいたから。いや、死んではいない。ただブツブツと何かをつぶやいているように聞こえる。カケルはなんとなく近づきたくないと思ったので放っておいた。すると隣の席の男が話しかけてきた。

名前は確か、佐野だったか。

「なあ、一個聴いていい?」

彼の様子は恐る恐るという感じだった。警戒されている。カケルには大体理由はわかっているのだが。

「内容次第だけど、答えられる範囲なら答えるよ」

カケルは頑張って明るめの声を出した。いつも三上を軽くあしらう感じではなく、できるだけ感じよく、安心感を相手に与えるために。

「じゃあ、聞くけど…一回死んだってまじか?」

その話か、とカケルは思う。聞きづらいといえば聞きづらい話なのかもしれない。カケルにそれを聞く勇気があるとはなかなか根性があるかもしれない。

「うん、まあ、自覚はなかったけどそうらしい」

「うお、まじか、あの話本当だったのか!」

「どの話だ?」

何の気なしににカケルはクラスメイトに聞いてみる。

「ちょっと前までこの学校で有名になってた、心肺停止から奇跡の復活、リバイバルヒューマノイドがうちのクラスにいるって話しが…」

そこまで話して佐野は固まる。カケルがものすごい形相で三上を睨み出したからだ。

(あの野郎、後で埋める)

「ま、まあ大変だったな。よくぞうちのクラスに戻ってきた」

「ああ、ありがとうな。せっかく戻ってきたから、まあ仲良くしてくれ」

そう言って微笑むと佐野は安心しように息を吐く。

「おう、よろしくな。天橋って思ったより話しやすそうなやつだな。安心したぜ」

「佐野は結構正直なやつだな。嫌いじゃないぜ」

カケルがそうして楽しそうにクラスメイトとの友情第一歩を踏み出したとき空気を読まずに三上がやってくる。

「ああ!相棒!お前俺を見捨てて佐野と仲良くするきか!」

「三上てめぇ表でろ!校庭に埋めてやる!」

「なんで!」

その後チャイムがなったおかげで三上は命拾いした。


昼休み。相変わらずくっついてくる三上に昨日のその後の話を聞かされていた。

「でさー、もうマクドさんでひたすら先輩2人にひたすらしごかれて、全然帰れなかった」

「へー、コードの勉強ねぇ」

三上はあの後学生に人気のファーストフード、

マクドサンド、通称マクドさんでひたすらコードの勉強をさせられていたらしい。

「ふっふっふ、だがおれはすでに基本的なコードはマスターした。これでもう先輩には叱られないぜ!」

「お前が叱られてるのはコード覚えてないからじゃないだろう」

三上には呆れて溜息が出る。そこでカケルは思いついた。

「Dm」

「え?」

「ディーマイナー、言ってみ?」

「レファソ!」

「違うよ、全然ダメじゃん」

そう言われて三上が落ち込んでいたがあることに気がつく。

「あれ?もしかして…」

「昨日のうちに大体覚えたぞ」

「うわぁぁぁぁん!」

部屋から出るなと言われたのでカケルはずっとコードの勉強をしていたのだった。


そして待ちに待った放課後。

「三上、先行くぞ」

「待ってくれよ、早くないか!なんでそんなやる気なんだ?!」

待たない。カケルはさっさと部室へとかける。ダジャレじゃねーぞ。するとすでに部室の鍵が開いていた。

「こんにちは、やっぱり早いですね、先輩」

美琴はすでに部屋にいた。

「おう、お前も早いな。教室から近い文私のが有利なんだ」

一年は校舎の3階、3年は1階なので、部室棟の1階にある軽音部の部室までは美琴の方が近い。

「三上は?」

「置いてきました」

「そうか、まああいつのことだ寂しくなってそろそろ…」

そう言いかけたところでガラガラと扉が開く音がした。そこには息を切らした三上が立っていた。

「ちっと、まって、置いてかないで…」

残念事後です。


カケルの練習は昨日のイメトレの甲斐があって非常に捗っていた。まだ運指表を見ながらだか練習曲がある程度弾ける、簡単な曲ではあるが。

こうして自分でやってみるとツボミが歌いながら弾いたり、今美琴がやっているみたいに何箇所も同時に押さえて弾いたりは難しそうだと思った。

そして結構指が疲れるし痛い。弦が指に食い込むのだ。

「こんにちは」

そう言って次に入ってきたのはツボミだ。この時間に来るということは掃除をしていたのだろう。

「おっすー、ツボミちゃん!」

「おう、土御門」

「よお」

3人みんな違う挨拶をする。三上はツッコミ待ち、美琴はふつう、カケルは遠慮がちに挨拶をした。

「三上、まだ言わせる気」

「すみません土御門さん」

ツボミはおもむろに楽器の準備を始める。ケースからだし、ベルトを取り付け、肩からかける。そしてカケルを、というかベースを一瞥。しかしすぐに自分の楽器を構えて練習を始める。わざわざベースから練習を始めるあたりこちらを意識しているようだ。ツボミは始めてまだ2ヶ月程度。それでもカケルは結構差を感じた。初心者の2ヶ月は非常に大きいものらしい。曲がりなりにも彼女は弾き語りができるところまでたどり着いているのだ。そう思うとカケルの緊張感も、練習への集中力も増した。

その様子を見ながら美琴は満足そうに微笑んで、すぐに自分の楽器に集中する。

(どうやら天橋には良い刺激になっているみたいだな。初日は順調そうだし、これは3ヶ月後が楽しみだ)

その頃キーボードは

(カケルが、想像以上にやる気だ…美琴先輩の目が俺から移って少しは楽できるかと思ったのに…)

非常にどうしようもないことを考えていた。


「こんちわー!皆さん来ましたよ、部長の田町ですよ!」

「知ってる」

「「「こんにちは」」」

「うわー、みんな反応薄い。三上くんあたりが良いリアクションくれると思ったんだけどな」

真剣に練習している人が多いので、反応がおざなりになった。

「お、天橋くん、調子はどうだい?」

「はい、なんていうか結構楽しいです」

カケルは何度も繰り返し練習して一曲、きらきら星が弾けるようになった。大したことはないのだが、まともに音楽に触れたことのないカケルにとっては大きな前進だ。

「おお、やるねぇ。これは三上くんをあっという間に抜かしちゃうんじゃない?」

そうして田町がチラッと三上を見る。

「しゃー!やったるぞー!」

対抗するように三上がきらきら星を引き出した。そんなに気合を入れて弾く曲じゃない。

練習は淡々と進んだ。放課後から4時半までそれぞれ個人練習。しばらく休憩を挟みそのあと合奏だ。しかしまだ曲を弾けないカケルと三上は個人練習を続ける。改めて聴くと3人ともうまい。ツボミは声がきれいだ。田町も複雑そうなリズムを笑顔でこなす。美琴に至っては演奏中終始ハイテンションだ。ギターソロは圧巻だ。ついつい練習の手を止めて聴いてしまう。

「やっぱかっこいいなぁ、ギター」

三上はそう呟く。

「そんなにやりたかったら頑張ればいいだろ」

「そうなんだけどさ、自分に嘘はつけないというか…」

1日に彼は何度周囲を呆れさせれば気がすむのだろう。

「おれ、正直者好きだけど、お前の正直さは嫌だ」

「酷くない?!」

カケルは三上を無視して再び練習を始める。一刻も早く彼等と一緒に演奏するために。


「今日はこんなところですかね」

「そうだな、みんな帰宅準備をしろ」

一通り練習が済んだのか、美琴は指示をする。

バラバラとみんな楽器を演奏片付けに入る。

ちなみに楽器はこの教室の鍵付きロッカーに保管するので、器具庫には運ばない。ロッカーに入らないドラムは窓から見えない位置に置く。

全員楽器が片付いたところで、全体連絡がある。

「連絡はまず、天橋くんが入部届けを出したので、今日正式入部になりました。どうだった?」

「充実した放課後でした」

「ナイス回答、頑張ってたもんね。この調子で続けてね」

そう言われてカケルは頷く。その答えに先輩2人は満足そうだ。ツボミに目をやると一瞬目があった。しかしすっと目をそらされた。三上は勝手に慌てている。

「それで、もう一個連絡。来週から試験週間です」

もうそんな季節か、早いものだ。今は6月中盤、試験は6月終わりなのでそろそろ勉強を始める時期かなとカケルは考えていた。休んだ半月分もあるので。

「うわぁぁぁぁん!」

こいついつも泣いてるな。

意外なことに美琴は遠い目をしている。

ツボミは心なしか顔が青い。

「えっと、その3人とも落ち着いて、別に脅かしたかったわけじゃないよ。できる人は金曜に楽器を持って帰ろうかって話をしたかったんだよ。学校で部活できないから、家で現状維持程度の練習はできるようにね」

「試験なんて、試験なんて」

「私に楽器を持って帰るか聞くのか?いつも持って帰っているわ。いや、でも逆に試験週間は置いて帰ったほうがいいかもしれない…」

この2人はどうやら相当まずいらしい。

「美琴先輩、楽器は持って帰るべきです!三角関数はノリで解くんです!」

「ああ、サインコサインタンジェントゥ!」

どうやらツボミもダメらしい。

「もしかして3人とも試験は…」

田町にこっそりと聞いてみる。

「うん、まあその追試予備軍。この部の平均点はとんでもないよ、下に」

この様子を見ると今から不安だ。夏休みあたりに誰かが泣きわめいていそうだ。

「部長はどうなんですか」

「まあ中の上ってところかな」

何事もないように田町は語る。

「貴様自慢か!」

「中の上とかどうやったらとれるんですか!」

「部長なんておれと同系統のくせに!」

(いや、あらためて話してみるとお前よりかなりまともだぞ、この人)

カケルは思ったが声には出さなかった。

「で、天橋くんは中間どうだった?」

「えーっと、部長。ちょっと耳貸してください」

カケルにはこの順位をここで大声で言う勇気はない。そこで田町にのみ耳打ちをすることにした。

「え!13位!!」

「「「!!!」」」

(あー、この人言っちゃった)

一学年300人強。その上位にカケルが食い込んでいたのだ。誰も想像しなかった。三上にも勉強教えてとか言われると面倒だから伝えていなかった。

「カケル」

「ちょっとあんた…」

同学年2人、この次のセリフはなんとなくわかる。

「丁重にお断りします」

「よっしゃあ!」

「は?」

三上がなぜ喜んでいるのかカケルには分からなかった。

「おれは勉強教えないでって頼もうと思ってたんだ!ということは教えてくれるんだろう!」

「お前はやっぱり埋めるわ」














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