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掴んだら音がした

「キーボードは!」

三上はすっかり怒っていた。楽器紹介ですっかりとばされ、演奏にも入れず、扱いも散々。不満が溜まるのも当然だろう。

「すまない、忘れていた。ちゃんと紹介するよ。

いいか、キーボードは素晴らしい楽器だ」

そう言って美琴は三上のキーボードの前までいく。

「キーボードは何がいいって音域が広いし休みなく弾き続けられる。さらに音も変えられるし、複雑な和音だってお手の物、こんな感じにな」

そう言って美琴はキーボードに触れる。クラシカルな曲だ。

(この人、キーボードも上手い)

トーンと最後の音がなった。終わりのようだ。

「キーボードは役割的にはハーモニーを作ったり、演奏中にできてしまう間を埋めたりする楽器だ。バンドのによってはいないこともある」

「そうそう、いい楽器だよ、キーボード」

三上がテンション低めで応答する。

「いい楽器と思ってるように聞こえないぞ」

「別に、俺キーボード好きじゃないし」

三上は実はキーボードであることに不満があるようだ。

「キーボードってさ、バンドの後ろの方でなんかやってるイメージっしょ?地味じゃん?ボーカルとかギターの方が目立つし、パッと見カッコいいでしょう?」

「まあそうだよな」

「貴様私の前でキーボードの悪口とはいい度胸じゃないか」

「ちょっ、美琴先輩落ち着いて、一旦話聞いて。俺としてはそういうバンドの顔、みたいなポジションにいたかったわけですよ。その方がかっこいいでしょ?もてそうでしょ!」

彼が軽音部に入った理由は心底くだらないものだった。

「貴様、まだそんなことを言っているのか…」

美琴は頭を抱える。

「はは、相変わらずだね」

田町は微笑む。その横でツボミはため息をつく。心底呆れているようだ。

「バンド=モテるとか誰が決めたんだ。頭悪い発想だな」

カケルの反応が最も辛辣だった。三上はその言葉で一瞬苦痛の表情を見せる。

「じゃあ、お前さっきの演奏どう思ったよ。伴奏に徹してた美琴先輩を意識していたか?いや、ボーカルのツボミちゃんの声に意識が入っていたはずだ」

「ちょっと、名前で呼ばないで」

ツボミが真顔で言う。再び三上の表情が歪む。

カケルはさすがに三上の扱いが酷い気がしてきた。

「…土御門さんのボーカルはカッコよかっただろ?綺麗だっただろ?明らかに目がいくだろう!別にそういう意味の格好良さがあるのはボーカルだけじゃない。ギターだってソロパートはあるさ。美琴先輩のギターソロはそれはそれはかっこいいんだぜ!聴いたら惚れるね!」

「やめろ気持ち悪い」

その美琴の言葉は恥じらいが一切ない単純な拒絶だった。カケルは何をしたらこんなに女性陣に嫌われるのかと考えたが、すぐに思い当たったので日頃の行いが悪いんだなと納得した。

「いい加減泣いていいですか…とにかく、俺はそういうカッコいい感じのがよかったんだ!なのに同じバンドに入りたければ足りないキーボードをやれとか…せめておれにベースをやらせて欲しかった!」

「練習するか怪しいお前がベースとか致命的だわ、誰がやらすか」

「美琴先輩ひどい!思い返せばキーボードとギターは役割がかぶることもあるって言ったのも先輩でしたよね!」

「ああ、事実だしな。ハモリやら伴奏やら被ってるだろ?」

「という感じで騙されたんだよ?ひどくない?」

「おれに聞くな」

「そうだよな、酷いよな!」

「ホントに聞いてねぇ」

「でも一番酷いのはさっきの合奏だよ!なんだよおれにやるかも聞かないで!出番のなかったキーボード様がかわいそうだろう!」

つまり色々思うところはあるのだろうが、ようは合奏からハブられて拗ねているらしい。なんとも面倒な男だ。そこに突然深刻な顔になった美琴が口を開く、キーボードの方を向いて。

「そうだった、大変敬意がかけたことをしてしまったな。キーボードに対して、すまないキーボード、あれを合奏に入れたくないからといってお前の紹介を後回しにするんじゃなかった」

「そうそう、で、僕には何か言うことはないですか?」

「お前には、そうだな…さっさと私たちが合奏に入れたくなるくらいうまくなれ」

「うわぁあぁぁぁん!あんまりだー!!」

とうとう三上は泣き出した。さすがに美琴以外は少々同情したくなっているようだ。

「うわぁ…」

ツボミに対し、さすがにうわぁはやめてやれよと思うカケルだった。

「相変わらず美琴さんはきびしいな」

田町のつぶやきにカケルが食いつく。

「いつもあんな感じなんですか?」

「うーん、真面目にやってる子にはそんなことはないんだけど、まあ練習は厳しいけど。あの子楽譜も読めない初心者で入ってきて入部動機聞かれて『モテたい!』って言ったんよ。そしたら美琴さんガチギレしてね」

カケルはなんとなく理解した。三上のここまでの行いや態度からあの先輩とは相性が悪そうだと。

「ちなみにその時いた新入部員はみんな逃げちゃったんだけどね…」

「あー」

「とまあそれでも三上君は残ってるわけだから中々根性があるよ。それで彼が真剣に打ち込むまでキーボードをやらせるって条件でバンド加入を認めたんだけど…」

「未だに真面目にならず、ということですか?」

「そうそう、彼楽譜は読めるようになったけど、今回やった曲まだ弾けないし、客に下手な演奏は聞かせない、を絶対に譲らない美琴さんは合奏に三上君を入れたくないんだよ」

「なんだ、自業自得じゃないですか」

カケルは気がした同情して損した。

その会話を泣きながら聞いていた三上がゆっくりこちらを向いた。

「うぉい!相棒までおれを見放すのか!」

「相棒じゃない。ちょっ!くるな!鼻垂れた顔でこっちくんな!」

「うわぁ…」

「ツボミ、うわぁは無いだろ!」

「え、ツボミ?」

「そうだよ、ツボミだよ!あいつが凄い汚いものを見る目をしているから、寄るな!」

「じゃなくて、今ツボミって言ったんだよな?」

「言ったな」

「言ったね」

カケルは何かまずいことを言ったか疑問に思った。

(あいつの名前って禁句なの?)

「ふぁあああああ!」

ツボミが突然叫びだした。

「どうした、どうかしたのか、ツボミ!?」

「ツボミって言うなああああああ!!」

その後カケルは天誅され、しばらく意識がとんだ。


「まさか我が親友と土御門さんが幼馴染とは…」

「誰が親友だ」

帰り道、カケルはバスに乗ろうと思ったが幼馴染さんの逆鱗に触れ、同じバスに乗らないよう釘を刺された。しかし次のバスまで30分も待たされるのだ。今は勝手についてきた三上と話しているところである。

「しかも隣の家、家族ぐるみ、なんかすごい」

これらの情報が漏れていることがツボミがさらに怒った理由である。おれが何度も口を滑らせ色々としゃべってしまった。とはいえあれは先輩に聞かれたからで、それに隠すことでも無いとカケルは思った。しかし見事に怒らせてしまった。女心は分からない。

「また死ぬんじゃないかと思った」

「怖いからやめて、土御門さんもお前が気絶した後起きるまで凄い不安そうな顔してたから」

「そうか、じゃあ今度会ったらそう伝えてみよう。そしたらきっと大人しくなる」

「相棒、それ言ったら多分本当に殺される。おれでもわかる」

「だから相棒って言うな。それにしても美琴先輩やけに食いついてきたな。下校時刻ギリギリまで問い詰められた」

「俺も、あんな先輩初めてみたよ」

「美琴さんそういう話好きだからね」

「そうなんですか…ってびっくりした!なんですか田町先輩」

カケルは突然背後に現れた田町に驚いた。

「君らもバスかい?僕もなんだ、先生に呼び止められてこんな時間になってね。君らは?」

「ツボミに前のバスに乗せてもらえませんでした」

「はは、やっぱりそんな感じか。話戻すけど、美琴さんって結構恋愛の匂いのする話が好きでね」

「そんな話したないですよ」

「一般的にはそう聞こえるんだよ。部活の練習時間はずっとギター触ってるからそう見えないかもしれないけど、実は結構乙女でね。練習時間外でその辺からかうと結構面白いよ」

「そんな勇気があるのは部長だけですよ」

たしかに三上がからかいにいって粛清される姿なんて誰でも想像がつく。

「まあ練習中はギターに恋してるからやると殺されるよ」

「死にたくないすね」

「だから、怖いからやめて…」

そんなこんな話しているうちにバスが来た。

一同が乗り込む時に田町が思い出したかのように聞いてきた。

「あ、そうそうカケル君、楽器、なんにするか決めた?」

カケルはあの後のことで割と楽器のことが頭から離れていた。実はカケルはバンドはやってみたいが、どの楽器がいいかという希望はまだ特になかった。

「ちょっと、考え中です」

「そうかい、実は僕が部長として、オススメしたい楽器があるだけどね?」

部長としてオススメ、ということは部としてはこの楽器が来てほしい、ということだろう。

ちなみに三上は「キーボード、キーボード」とか言っているので片手で軽くひねった。


田町の答えは

「ベースなんていかがですか?」











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