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夢の続きを求めて

なんだろ、思ってたのと違う

キャラが勝手に動き出しました

求めていた世界にたどり着けないかも…

「おはよう」

「兄ちゃんおはよう、久々の自分のベッドどうだった?」

「病室の方が柔らかくて寝心地よかったよ…」

あれから半月ほどたった。あれっていうのは生き返ったときのことだ。検査した結果体に異常は何もなし。本当になぜ死んだのかもわからないし、なぜ後遺症1つ追っていないのかもわからないという。結構長めに入院していたのだが、おそらくもう大丈夫ということで昨日退院したのだった

「なんだよー、じゃあもうちょっと入院してろ」

彼の弟はというと相変わらずツンデレさんだ。

「男のツンデレとか嬉しくない…」

「デレてねーよ。あーあ、1人部屋だったのによー、帰ってきてんじゃねーよ」

「そんなこと言って、昨日必死に片付けてたじゃない」

「はっ?!してねーし、元から俺は整理整頓を重要視してるんだよ!」

「はいはい、そうですよねー」

「なんだよ!!」

この兄妹は相変わらず騒がしい。入院中、たびたび病室まで来て、そして毎回喧嘩して帰っていった。あるときは看護師のおばちゃんに怒鳴りつけられていた。半月が経ち何度も見ているうちに、このやりとりをうるさいとしか感じなくなっていた少年だった。

「あーっもう!朝からウルセェ!仲がいいのは分かったから少し静かにしろ!」

「「仲良くないし!」」

この双子はやはり仲がよかった。


「んじゃ、行ってきまーす」

「お兄ちゃん、いってらっしゃーい」

「死ぬなよ〜」

弟の彼に対する挨拶は『死ぬなよ〜』になった。

彼なりの思いやりか、はたまたブラックジョークか。その辺は定かでないが弟なんていうのは生意気な生き物だ。気にしたら負け。むしろ少年はユーモラスにすら感じているのだが。しばらく寝たきりだった彼は今日久しぶりに高校に行く。久しぶりということで、普段は使わないバスを使うことになった。するとバス停で彼女と鉢合わせたのだ。あれだけ綺麗な茶色の髪と整った顔立ちの少女だ。彼女は彼を見て、驚いたような顔をした。一瞬目があう。しかし彼女はすぐに目を逸らした。少年も気まずい感じになってバス停を通り過ぎようとした。しかし通り過ぎてどうすると思い直し、彼女のこと後ろに並ぶ。なんとも気まずい空気だ。あのことがなければきっと2人はこんな空気を共有することはなかっただろう。

「…はよう…」

消えそうな声で彼の方を見ずに彼女はつぶやいた。それでほんの少しだけ、空気が和らぐ。

「ああ、おはよう」

幼馴染と久々に交わした挨拶は、以前のような親しさはなかった。ただ、以前よりも少し特別な感じだった。そこからはお互いに言葉を交わすこともなくバスを待った。バスが来て2人は乗り込む。

先に乗った少女は、後ろの方に座るようだ。彼はそれと反対方向に行こうとした。

「カケル…」

少年はビクッとした。この声でこの名を呼ばれるのは何年ぶりだろうか、少年は振り向く。

「退院、おめでと…」

それだけ言うと彼女はすっとバスの奥へと歩いていく。

とっさのことで、反応が遅れた少年、カケルだったが、なんとか言葉を探し出し返した。

「ありがとな、ツボミ」

自分の名前を呼ばれた少女は、席が空いているにも関わらずカケルに背を向けたままつり革につかまって立っていた。


「うおをを!心の友よ!!」

「うるさい」

誰かに挨拶するよりも先にこんな言葉が出てしまったことをカケルは残念に思った。

「なんだよ!半月ぶりの再会だぜ!」

「そうだな、出会ってからとそんなに変わらない期間だ。」

「いやもう少し長いだろ!俺たちの2ヶ月の友情はどこへ行ったんだ!」

現在6月半ば、ヤケに馴れ馴れしいこの男とはほんの2ヶ月ちょっと前に出会った。4月、忌まわしい過去を清算し、晴れ晴れとした気持ちで入学したあの日、こいつと出会った。その時から髪を頭の悪そうな金色で染め、軽い雰囲気を出して悪い方向で目立っていた。

「はー、久々の学校で疲れてるんだよ。静かにしてくれ」

「なんだよー、お前がいない間、どれだけ俺が寂しい思いをしていたと思ってるんだよー」

「おれ意外の友達をつくるチャンスだったじゃないか、よかったな」

「よくない!あれから大変だったんだぜ、小林さんに告ってふられ、森さんに告って振られ、佐々木さんに告ってフラれて、三玉砕よ!」

この男はバカだ。カケルはそう再確認した。半月で3人に振られるって異常だ。

「いやいや、俺としてはお前がいない間、1人寂しく過ごすのはどうかと思ってさ、仲良くなろうとしたんだよ、女子と。で、俺の見立て、クラスの可愛い子トップスリーにお付き合いを申し込んだわけ」

「お前がバカなのはわかった。バカが移るから近寄らないでください」

誰が聞いても色々な過程をすっ飛ばしすぎ、その上乗り換えが早すぎる。

「まー!この子酷い!最後まで聞いてくれよ、それでその後クラスでさー、『あの三上ってやつ軽過ぎだよね〜』とか言われちゃってさ。この1週間女子から目の敵にされてて…」

「おい待て、お前半月で3人に告ったんじゃなくて1週間で3人に告ったのか」

「そうだよ?」

「やっぱ近づかないでください」

「そう言うなってー!で、男子からは英雄扱いされたぜ!でも俺男に興味ないから『可愛い子に告白もできないとかそれでも男か?本当に付いてんのか?』って言ってやった。したら男子にもフルボッコにされた」

「なるほど俺も男だ興味ないだろ近寄るな。」

「ふっ、相棒、お前は別だ」

カケルは底知れぬ身の危険を感じ彼から離れようとした。

「待って、待って!言葉の綾だよ!俺は可愛い女の子にしか興味ないよ!そういう性癖だよ!お願い!俺を見捨てないで、1人にしないで!」

「うっせー!そんなこと大声で言ってるからハブられるんだよこのどアホ!いっぺん死んでこい!」

「…お前が言うと重みが違うな」

「余計なお世話だ!あー、もうなんでこいつのお守りを俺がしなきゃいかんのだ!」

「とかいって、俺を見捨てないあなたのこと、大好きです!」

この言葉を聞いて、三上がガチ土下座をしてくるまでカケルは彼と口をきかなかった。


放課後、カケルは教室からぼーっとグランドを見ていた。部活動を始めた生徒たちが、ちらほらと見える。カケルは部活に入らなかった。春には特にやりたいことがなかったからだ。三上に軽音楽部に誘われたが断った。楽譜は読めないし。

三上曰く『読めなくても大丈夫、楽器持ってればモテる』らしいが、それを聞いてより強く拒絶した。

教室から一番見やすいところでサッカー部がグランドを使っている。カケルもかつてはサッカー部だった。小学生の時だ。放課後楽しくみんなでボールを蹴っていた。しかし中学では退部になった。協調性がない、問題児、不良と呼ばれ、先輩にも目をつけられ、自衛のために戦って、気づけば番長。彼は中学の大切な2年を非行少年、一匹狼で過ごした。高校でサッカーをやろうと思わないのは、そういう過去があるからだろう。

しかし思い出す。あの時と、あの夢を重ねる。

誰かは分からなかったが、大切な人たちと共に過ごしていたあの夢を。彼に向けられた笑顔を、差し伸べられた手を。教室で、また1人だ。以前より1人でいる時間が増えた気がする。前からこんなものだったはずなんだけどなと、カケルは思い返す。しかし思い浮かぶのは1人でいた時期ではなく、誰かと過ごした日々だった。クラスメイトやツボミ、家族、ついでに三上、あとは夢で見た彼ら。

「どうやら俺は、思ってたより寂しがりやらしいな…」


カケルはゆっくりと教室を出た。そしてある場所へ足を運ぶ。


「へっ?あんた…」

開いた扉の先には見慣れた顔が2つ並んでいた。


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