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1日目 月曜日

「世界中の男どもを駆逐するには、どうすればいいと思う? 副会長」


 放課後の生徒会室で、今日も今日とて生徒会長である『大依おおい 千斗瀬ちとせ』氏がクレイジーな発言をしてきた。


「その中には当然、オレも含まれているんですよね」

「あたりまえじゃない。なに、もしかしてあなた女になりたいの? TSF希望者?」

「いやいやいや」


 彼女の発言には、たまに意味不明な単語が出てくる。

 それにいちいち突っ込みを入れていたら、切りがないんだけど。


「そもそも、なんで急にそんな突拍子もないことを言い出すんですか」

「私の妹がこの学園に入学してから、2週間が過ぎたわ」

「ああ、千夜雫ちよださんのことですね」


 2年生のオレが1年生の教室に行く機会なんて滅多にないから、まだ見たことはないけど、結構な美人ってことで噂になっている。

 ただ彼女のことは、今まで千斗瀬さんから散々話を聞かされてきた。


「その間、いったい何人の男があの子に言い寄ったと思っているの」

「ええと……これまで聞いた限りでは、20人くらいですか?」

「22人よ! どいつもこいつも、身の程知らずもいいとこだわ」

「それだけ、人気があるってことですよ」


 ついでに言うと、姉である千斗瀬さんもとびきりの美人だ。

 若干、性格が破綻しているけど。


「そりゃあ、私の妹は超絶かわいいわ。言い寄りたい気持ちもわかる。加えてあの爆乳、さわり心地もバツグンよ」

「は、はあ……」


 ここで冗談でも、「それはぜひ一度、さわってたしかめてみたいですね」なんてことを言ってはならない。

 そんな失言をしようものなら、オレは確実に三途の川を渡ることになるだろう。


「でもね。それは全部、私のものなのよ!」

「…………」


 そう、この人はシスコンなのだ!

 それも病的と言っていいくらい、重度の。


「……あなた今、私のことをシスコンとか考えたでしょう」

「あ、ええと」


 しまった。千斗瀬さんは妙に鋭いところがあるんだった。

 こっちの考えてることを瞬時に見抜いてくるから、下手な言い訳はしない方がいい。


「す、すみません」

「別に謝らなくてもいいわ。でも、その呼び方は気に入らないから、もっと雅やかにレズって言うようにしなさい」

「レズはOKなんですか!?」

「あたりまえじゃない。今や同性愛は、人権的にも認められているんだから」

「いやでも、相手は家族ですよね?」

「そんなの些細な問題にすぎないわ。文句を言うやつがいたら、私の怒りを込めた『ドロップキック』で黙らせるまでよ」

「千斗瀬さんの場合、ホントに黙らせそうだから怖いですよ」


 愛を理由にして、危険なことでも平気で実行しようとするんだから。

 まさに、クレイジーなレズって感じだ。


「とにかくこれ以上、あの子に男が言い寄らないようにしないと。いっそのこと男子生徒は全員去勢を必須とする、新しい校則を作ろうかしら」

「ムチャクチャ言わないでください!」


 そんな校則ができようものなら、オレも無事では済まないし。


「だって、あの子がどこの馬の骨ともわからない男にたぶらかされるのを、黙って見てるわけにはいかないでしょ!」

「そこは実の妹のなんだし、すこしは信用してくださいよ。千斗瀬さんの妹なら、変な男に捕まるわけないですから」

「ぬぬぬ……」


 会ったこともない人のことを信用しろって言っても、説得力はないけど。

 だた、こういう風に言っておかないと、千斗瀬さんは絶対に納得しない。


「……そうね。あの子に限って、そんなことはないか」

「はは……」


 それ、親とかが言い訳で使って、自滅するパターンのセリフですよね。

 やれやれ……。

 千斗瀬さんとのこんなやりとりも、だいぶ定番化してきたな。

 この人、二言目には自分の妹の自慢話をしてくるから、耳にタコができそうだ。

 まあ、それだけ溺愛しているんだろうけど。


「ほら、手が止まっているわよ。早く資料をまとめなさい」

「あ、はい」


 さっきから無駄口をたたいているが、千斗瀬さんはずっとノートパソコンのキーボードを打っている。

 さすがに2人で生徒会の仕事をこなさないといけないから、休んでばかりもいられない。

 なにしろ今いる生徒会の人間は、オレと千斗瀬さんの2人だけだから。

 他の生徒会役員は、千斗瀬さんが人間嫌い……というか男嫌いなため、出入りを禁止されてしまった。

 それなのにオレだけ許されているのは、他の人間ほど千斗瀬さんを特別視することがなかったからだろう。

 だって、それ以上の美人をオレは身近で見ているから。


「そういや昨日、またあなたのお姉さんが1年の男に告白されていたわよ」

「……まだ、そんな無謀なことをする人間が残っていたんですね」

「ま、すぐに親衛隊の連中に連行されていったけど」

「それもいつものパターンですよ」


 弟のオレが言うのもなんだけど、姉さんはものすごい美人だ。

 この学園のミスコンに2年連続で優勝し、V3も間違いなしと言われている。

 千斗瀬さんと同じ3年生だから、学園内で会うことは滅多にないけど、噂だけは嫌というほど耳に入ってくる。


「ホント、いつ見ても人間離れした美貌の持ち主よね」

「そうですか? 見慣れるとそうでもないと思うのですが」


 物心ついた頃からあたりまえのように見ているから、それが特別だと思ったことがない。

 慣れっていうのは、恐ろしいものだな。


「贅沢な悩みよね。どうせあなたも、美人の姉に欲望をたぎらせているくせに」

「し、してませんよ。実の姉を相手に、変な気なんて起こるわけありませんから」

「血がつながっていると思っていたけど、じつは義理でした……なんてこと、よくあるじゃない」

「いやいやいや。現実世界でそんなドラマみたいなこと、よくあったりはしませんから」

「でも、お風呂をのぞいたり、下着を盗んだりしてるでしょう?」

「してません」

「嘘おっしゃい! あんな綺麗な姉がいるのよ。今までパンツを盗んで被ったことぐらいあるでしょうが!!」

「オレをどういう人間だと思っているんですか! しかもパンツを盗んで被るとか、どう考えてもおかしいし」

「あなた知らないの?」

「なにをですか?」

「パンツは被るものなのよ!」


 千斗瀬さんが無表情なまま、きっぱりと言い放つ。


「ううむ……」


 オレは眉間に手を当てて、目眩がしてくるのを抑えた。

 この人……自分の発言がおかしいってことに気づいてないのか?


「姉妹のパンツを被って、嗅いで、舐めるのは、人としてあるべき真の姿なんだから!」

「そんな真実の人間には、間違ってもなりたいとは思いません! って、まさか千斗瀬さん――」

「パンツは被るものなのよ!」

「……同じことを2回も言わなくていいです」


 なんか盛大なカミングアウト発言を聞いた気がするけど、これ以上は深入りしないでおこう。

 ホントにどうしようもないほどの妹好きで、男嫌いで、わがままで、自己中心的なんだから。

 でも、そんな千斗瀬さんを……オレは好きになってしまった。


 去年、この学園に入学してすぐに、オレは当時2年生で生徒会長をやっていた千斗瀬さんの仕事を手伝うようになった。

 最初は、特別な感情を抱くことはなかった。

 だけど、1年も一緒にいれば相手のこともいろいろとわかってくる。

 この人、見た目や言動で誤解されやすいけど、オレが今まで見てきた誰よりも強くてやさしくて……そして、さみしがりやな人だ。

 そうでなければ、オレを手伝いとして生徒会室に入れたりはしないだろう。

 千斗瀬さんが飛びぬけて優秀だから、この人がいるだけで十分って思うところも多いし。

 なんのスキルもないオレをそばに置いているのは、1人きりの辛さを知っているからに違いない。

 とはいえ……オレは自分の気持ちを、千斗瀬さんに伝えたりはしない。

 浮ついた目で見ようものなら、他の男たちみたいに生徒会室から追い出されてしまうし。

 なにより、男嫌い……もとい、自分の妹のことしか考えてない千斗瀬さんに告白したところで、結果は目に見えている。

 今の関係を続けているだけで、オレは十分幸せなんだ。


「とりあえず、今日はこの資料をまとめるところまでやってしまいましょう」

「はい」


 目の前で千斗瀬さんが、ものすごい集中力を発揮しながら仕事をこなしていく。

 そんな彼女の姿を見て、心がなごんできた。

 なんかいいよな、この雰囲気。

 それから無駄口をたたくこともなく、オレたちはそれぞれの作業を続けた。

 …………………………。


「そろそろ時間だから、今日はこのくらいにしておきましょうか」

「そうですね」


 いつの間にか、完全下校の時間が迫っていた。

 切りのいいところで仕事を終えて、帰る準備を始める。


「千斗瀬さんは今日もバイトですか?」

「ええ、私はまだすこしやっておくことがあるから、先に帰ってもらっていいわよ」

「それじゃあ、お先に失礼します」

「また明日、頼むわね」

「はい」


 生徒会室を出て、昇降口を目指して歩き始める。

 できることなら千斗瀬さんと一緒に帰りたいけど、そんな夢のようなイベントが起こるわけがない。

 そもそもオレは、生徒会役員ですらないのだから。

 千斗瀬さんには呼びやすいから……なんていう理由で副会長って呼ばれているけど、肩書きも権限も持ってない。

 ただ単に、手伝いとして生徒会室に出入りしているだけだ。

 そしてそのことを、学園内では内緒にしている。

 オレが千斗瀬さんのそばにいるためには、そうしておかなければならないから。


「このまま何事もなく、千斗瀬さんが任期終了を迎えたらいいけど」


 本音をこぼしながら、昇降口で靴を履き替えて校門に向かった。

 それにしても千斗瀬さんは、毎日なんのバイトをしているんだろう?

 できることなら、そっちも手伝えたらいいのに……


「こんばんは、先輩」

「……えっ?」


 考え事をしながら校門を出ると、オレは見知らぬ女生徒に声をかけられた。


「キミは――」


 顔を見たところで、相手が誰なのか想像がついてしまう。


「もしかして、『大衣おおい 千夜雫ちよだ』さん?」

「はい、お姉ちゃんがいつもお世話になっています」


 そこにいたのは、千斗瀬さんが溺愛する妹の千夜雫さんだった。

 なるほど、姉妹というだけあってよく似ている。

 外見で違っているところといえば、髪を後ろで縛っていないのと、前髪をセンターで分けているところくらいか。

 しかも、千斗瀬さんに負けず劣らずの美貌の持ち主だ。

 これなら、何人もの男に告白されたのも納得がいく。


「あ、オレは――」

「知ってます。お姉ちゃんから、いろいろと聞いてますから」

「千斗瀬さんから?」

「はい」


 はて? 千斗瀬さんがオレの話なんかを妹さんにするとは思えないんだけど。

 それにしても、この子はこんな時間に校門前でなにをしているんだろう?


「もしかして、千斗瀬さんを待ってるの?」

「いえ、お姉ちゃんはこのあとバイトがあるでしょうし」


 そう……だよな。そのことを知らないわけがない。

 だとしたら、どうしてここに……

 まあ、オレには関係ないことか。


「もうすぐ完全下校の時間になるから、早めに帰った方がいいよ」

「ええ。ですから先輩、わたしと――」

「ん?」

「わたしと、一緒に帰りませんか?」

「……はっ!?」


 あまりにも予想外なセリフに、オレは開いた口がふさがらなかった。


 いつものように、帰り道を歩き始める。

 しかし今日は、すぐ隣にさっき会ったばかりの女の子が寄り添うようにして歩いていた。


「ここのところ、いい天気が続きますね」

「うん、そうだね」

「明日も晴れるといいですね」

「うん、そうだね」

「先輩、さっきから同じことしか言ってませんよ」

「うん、そうだね」

「このままわたしを、拉致監禁するつもりですか?」

「うん、そう……ってそんなことしないから!」

「ふふっ、そうですよね」


 いらずらっぽく微笑みながら、彼女がオレの顔を覗き込んでくる。

 その笑顔は「ああ……この子はきっと、自分のことが好きなんだ」と、勘違いしてもおかしくないくらいの魅力があった。

 なんだこれ? いったい、なにが起こっているんだ。

 男なら誰しも憧れるであろう、女の子と2人で帰る下校イベント。

 その初めての相手が、千斗瀬さんの妹になるなんて。

 突如として起こった出来事に、思考がショートしてしまいそうだ。

 だけど、喜んでばかりもいられない。

 こんなことが千斗瀬さんに知られたら、どんな目に遭わされるか。

 ああ……マズい、非常にマズいぞ。


「先輩って結構、おもしろい人なんですね。それに、すごく話しやすいし」

「そ、そうかな?」

「お姉ちゃんとは、いつもどんな話をしているんですか?」

「どんなって……」


 キミの話を永遠と聞かされている……なんてこと、言えるわけないし。


「そんなに大した話はしてないよ」

「そうなんですか」

「うん。あのさ……お、大衣さん」

「その呼び方だとお姉ちゃんと間違えそうだから、千夜雫でいいですよ」

「じゃあ、千夜雫……ちゃん」

「呼び捨てでもかまいませんよ」

「いや、さすがにそれはちょっと……」


 名前を呼び捨てにしているところを千斗瀬さんに聞かれたら、なにを言われるかわかったもんじゃない。


「それより、どうしてオレと一緒に帰ろうと思ったの?」

「ん〜。一度、先輩と話をしてみたかったんです。そのために、わざわざ待っていたんですから」

「話?」

「はい。お姉ちゃんが唯一、学園で親しくしている人みたいですから」

「いや、オレは千斗瀬さんの生徒会の仕事を手伝っているだけで、親しいわけじゃないよ」

「そうなんですか?」

「うん。1人でやるのは大変なこともあるからね」


 なるほど……つまり、自分の姉がどんな人間と一緒にいるのか確認しようとしたわけか。

 そのために、わざわざ一緒に下校までするんだから、千夜雫ちゃんも千斗瀬さんのことを大切に思っているに違いない。

 まあ、千斗瀬さんほど重症ってわけでもないだろうけど。


「じゃあ、先輩はどうしてお姉ちゃんの仕事を手伝うようになったんですか?」

「あれ? 千斗瀬さんから聞いてないの?」

「お姉ちゃん、そういうことは話してくれないんですよ」

「そっか」


 千斗瀬さんとの出会い……か。

 話したところで、大した問題にはならないだろう。


「オレが去年、新入生として学園に入学したときのことなんだけど、その日、帰る前に体育館の方へ寄ったんだ」

「なぜ、そんなところに寄ったんですか?」

「ちょっと、学園内を見学しておこうと思って。すると中に、入学式の片付けを1人でやっている千斗瀬さんがいたんだ」

「えっ? お姉ちゃん1人で片付けていたんですか?」

「うん。千斗瀬さん、そのときすでに生徒会長になっていたんだけど、生徒会の状況は今と同じで、仕事は全部、千斗瀬さんがやっていたみたいなんだ」

「それで、先輩はどうしたんですか?」

「1人では大変だろうと思って、手伝うことにしたんだ。まあ、いきなり初対面の人間が手を貸してきたから『よけいなことをするな』とか、『邪魔だからとっとと帰れ』とか、散々言われたけどね」

「それなのに、先輩は手を貸したんですか?」

「さすがに見て見ぬ振りはできないし」

「それって、本心ですよね」

「そうだけど……他になにか理由がある?」

「い、いえ」

「とにかく、最後まで片付けて一休みしていたら、千斗瀬さんに「明日の放課後、生徒会室に来るように」って言い渡されたんだ」

「…………」

「で、翌日、生徒会室に行ったら「今日から副会長に任命するから、私の仕事を手伝いなさい」って言われて……以来、1年近く手伝い続けてるわけ」

「なるほど、そういうことですか」


 千夜雫ちゃんが、すべてを悟りきったような表情をしてきた。

 今の会話で、なにかわかったのかな?


「先輩――」

「ん? なに?」

「よくもまあ、そんな少女漫画みたいなベタな方法で、お姉ちゃんと知り合いましたね」

「ええっ!?」


 千夜雫ちゃんが、あきれきったような声を出してくる。

 少女漫画って……普段、読まないからどういう意味かわからないんだけど。


「オレ、なにか変なことした?」

「うわっ、しかも自覚がないとか……かなり重症ですね」

「そんなこと言われても……」

「じゃあ、単刀直入に聞きますけど、先輩はお姉ちゃんのことをどう思っているんですか?」

「どうって、すごい人……かな?」

「そういうことじゃなくて――」

「ああ、異性としての意識は持ってないよ。そんなものがあったら、千斗瀬さんの側にはいられないし」

「そう……なんですか?」

「うん」


 オレはこれ以上ないくらい、ハッキリと好意があることを否定した。

 さすがにこればっかりは、本心を伝えるわけにはいかない。今の千斗瀬さんとの関係が壊れる危険性があるから。

 それに、こう見えてオレは嘘が得意だ!

 いや、そうじゃなくて……自分の本心を隠すのが上手い方だと思う。

 これまで男嫌いの千斗瀬さんの側にいるために、どれだけ努力してきたことか。

 どこかの隠し事ができない人間とは、わけが違う。


「ふぅ〜ん」


 そんなオレの顔を、千夜雫ちゃんがじっと見つめてきた。

 まるで、心の奥底をのぞいてくるかのように……紫紺の色をした瞳が、妖艶な雰囲気を醸し出している。


「な、なに?」

「いえ、先輩って表情が読みにくいですね。前髪が長すぎるってのもありますが」

「ああ、これ? なんか千斗瀬さんに「長い方が似合っている」って言われて伸ばしているんだ」

「……なるほど。わかりました」


 そう言って、千夜雫ちゃんがオレから視線を外した。

 納得して……くれたのかな? 多分、本心はバレてないと思うけど。


「先輩が善意だけで、お姉ちゃんの手伝いをしているのは本当みたいですね」

「心配しなくても、お姉さんに変なちょっかいをかけたりはしないよ。そんなことをしたら、速攻で生徒会から追い出されるし」

「でも、先輩のことはちょっと気になりました」

「へっ?」


 なんでオレのことが気になるんだ? 千斗瀬さんへの疑いは晴れたはずなのに。


「あ、わたしはこっちですから、ここで失礼しますね」

「う、うん」


 もうすぐ街中に出ようかというところで、千夜雫ちゃんがオレとは違う帰り道を指してきた。

 家まで送り届けた方がいいかもしれないけど、これ以上、一緒にいるところを誰かに見られたくはない。


「それじゃあ、気を付けて」

「はい。さようなら、先輩」

「さよなら、千夜雫ちゃん」


 笑顔で手を振りながら、千夜雫ちゃんが去っていく。

 いつも無表情な千斗瀬さんと違って、彼女はずっと笑顔で話しかけてきてくれた。

 それも、アイドルにスカウトされてもおかしくないほど、輝いた笑顔で!

 いやはや、姉妹そろって笑顔の破壊力は一級品だな。

 そんなことを考えながら、千夜雫ちゃんの背中を見守り続けていると――


「また、学園で」


 最後に一度だけ振り返って、オレに呼びかけてきた。

 それから角を曲がって、姿が見えなくなる。


「……ん? また学園で?」


 いやいやいや。そう何度も会う機会なんてあるわけない。

 1年生のあの子が、わざわざ2年生の教室に来るとは思えないし。


「まあ、大丈夫だよな」


 すこしばかり楽観的な考えを持ったまま、オレは家路についた。

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