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mission 3

かなり遅れましたね……

作者は他の作品も書いているのでこちらは割と遅めの更新になりそうです。ご容赦ください。

射撃場にて

大和 葵と多田 幹久は一足先に射撃場で準備をしていた。

大和 葵は勝負の準備を。

多田 幹久は2人の勝負の為に部下を使って会場のセッテングを。

しかし彼、不知火 空は一向に現れない。

これには葵も怒りを露わにした。



「遅いですっ!何やってんですかあの人!」


「彼にもそれなりに準備があるのさ」



怒りで地団駄を踏む葵と対して落ち着いたというよりもマイペースな幹久は彼が来るのを気長に待っている。



「まぁ挑発されたとは言え、それに乗って挑戦したのは君なんだがね葵君。何も起こらなけば今頃護衛対象に会って貰っていたところなんだがね〜」



しかし、幹久も大事な時間を取られこの勝負を作った元凶である葵に対して少し含んだ言い方で威圧する。



「申し訳ありません、校長先生」



怒り状態で地団駄を踏んでいた葵は一瞬で怒りを鎮火されシュンとなり幹久に頭を下げた。

だが、”校長先生”と呼ばれた幹久は首を横に振り、否定する。



「それは去年までだよ。今は防衛省の役人だ。まだ下の方なんだがね。だけど……君が彼に挑戦を叩きつけた理由も分からなくはないんだよ。誰だってあんな事を言われた腹が立つだろうね。だが、彼も君を信用出来てない事もまた事実だ。この際、彼を良く見てるといい。面白い事が多く見れるかも知れないぞ?」



確かにと葵は納得した。

あの一場面だけで人を判断するのは良くないと必死に言い聞かせる。

だから射撃を見て判断してみるのも良いだろう。

射撃で嘘はつく事は出来ない。

本人の性格が撃ち方や姿勢に出てくるし、本当に性格が最悪なだけか見る分には価値がある。

1人でそんな思考に至っていると、幹久は思い出したかのように「ああ、そうだ」と付け加えた。



「君は切り裂きジャックについて何か知ってるかね?」


「イギリスで起きた連続殺人事件の犯人ですか?それとも……」


「ここ数年で世界中の特殊部隊を壊滅させた事で有名になった人物だよ」



そう言って幹久は葵に資料の束を渡した。

それを受け取るや資料に目を落とす。

そこには切り裂きジャックが今までに屠ったとされる部隊の一覧やその被害状況、また被害に遭った部隊の事細かな状態、死体の状態、プロファイリングによる性格の考察、今後狙うと思われる部隊一覧などなど。

紙一枚びっしりと図や写真や文字で埋め尽くされ束となっている。



「これが今回の仕事となんの関係があるのですか?」



何故今こんな資料を渡すのか?と理解出来ない葵。

今回のテロを起こそうとしている主犯ではないかと1人で決定付けるが全く別の答えが返ってくる。



「それが挑んだ相手だよ葵君」


「えっ?」


「いや、それが今から君の挑戦する相手だよ」


「そういう意味で言ったんじゃありませんっ!驚いただけです」



呆気に取られる葵に対し、まるでRPGゲーム序盤の説明キャラクターのように同じような台詞を繰り返した。

そんな事は分かってる!と葵は幹久を思いっきり睨む。



「いや〜、ごめんね。どうもお堅い役人達と過ごしてると頭が凝り固まってしまってね。で、さっきの続きだけど。我々日本は3年前、切り裂きジャックと呼ばれ始めたばかりの彼を雇った。暗殺から不穏分子の排除など……表に消して出ない裏の仕事だ。それを彼は全て1人でこなしてしまった」


「それ本当なんですか⁉︎」


「ああ本当だよ。その詳細は機密で教える事は出来ないが目撃した私が言うのだから事実には変わりない。……本当はこれ、言っちゃ駄目だから他言無用で頼むよ」


「ええ……」



人差し指を口に当て、言わないでくれとジェスチャーで葵に伝える。

これには呆れるしかない。

この幹久と言う役人は嘘は言わない事を葵は知ってる。

つまり、彼が空を見ていた事も本当で機密事項という事も本当なのだ。

それをおいそれと葵自身に喋ってしまうのだから……



「本当はこれも言っちゃ駄目なんだが。一度自衛隊のSこと特殊作戦群とも演習と言う名目で戦わせた事があるんだが〜、君はどっちが勝ったと思うかね?」



先程言わないでと言ったばかりなのにまた機密事項について語り始める幹久に葵は心底呆れた。

しかし、聞かれた事の答えは即答できる。

日本の中でも唯一の特殊部隊であり、強靭な肉体と精神を持つ人外とも言うべき者達の巣窟。

あんな細身のとても筋肉質とは程遠いあの少年が勝てる訳がない。



「それはもちろん特戦に決まって__」


「実は彼なんだよ。20人のSは彼の相手にすらならなかった。彼は柔軟な肉体を生かした近接格闘、精度が機械に並みに良い射撃、一瞬で判断する状況判断、敵の動きを予測したブービートラップの配置、待ち伏せからの奇襲などなど……まるで戦闘を自分の手足を動かすように操っていた。開始2分ちょいで20人の特戦は成すすべなく全滅したのさ。正に特殊部隊キラーの名を持つ兵士だよ彼は」



葵が自信満々に答えようとするが、幹久は手で「待った!」と途中で遮ると、事もあろうにあの少年の事を自慢するように語り始めた。

どっちの味方ですか?と半眼で睨むと幹久は「悪かった悪かった」と自慢から葵自身へと向けた忠告に変わる。



「彼は本物だよ。だから気を付けたまえ。あまり行き過ぎた真似をすれば消されるかも知れないぞ?」


「__ッ⁉︎」


「冗談だ。彼は少なくも任務、仕事には忠実な男だ。更には今回の依頼にはテロリスト以外の日本人に対する不殺を条件につけている。心配は要らないだろう。……寧ろそれを条件に付けないとあちこちで悪人が姿を消し、悲鳴が絶え間なく聞こえて寝れなくなってしまう」


「何か言いました?」


「いんや、何も……いや」



最後らへんがボソボソっと小さく言われ聞き取れなかった葵は聞き返すが、幹久は否定……したと思いきや言い直す。



「ハニートラップの一つや二つ使って彼を落としてみたらどうだろう。案外君に惚れるかも知れないぞ?そのまま日本へ引き込んでくれるとおじさん的には嬉しいな〜って」


「ははは、は、ハニートラップ……」



幹久の本音は葵には届いておらず、口をパクパクさせながらその言葉を発しようとしていた。



「あれ?君頃の年ならそういう事も 知っておかしくはない筈なんだが?」


「セ、セクハラですよっ!」



顔を真っ赤にした葵は渾身の回し蹴りを幹久の膝めがけて蹴り込む。

女でも訓練を受けた葵の蹴りは的確に膝の急所部分へとクリーンヒット。

これには堪らずしゃがみ込んだ。



「痛い、痛い。おじさんをそんな勢い良く蹴らないで。骨が折れちゃう」



一見コントにも似たやりとりに幹久の部下2人は見慣れているらしく黙々と作業を続けていた。

それがしばらく続いていたのだが、ある気配に気付き葵は蹴るのをやめた。

幹久もその気配の方向へと視線をずらしてみると、その人物は凄く冷めた目で幹久を見ていた。



「ねぇ、空君。なんでそんな冷たい目をしてるのかな?おじさん傷付いちゃう」


「………ならその性格どうにかしたらどう?」


「なんか物凄く心が痛い!しかも物理ダメージ以上に強力ッ!」



ソラの一言で幹久は心臓を押さえるように苦しみをオーバーリアクションで表現。

しかし、ソラは何やってんのこいつ程度にしか思ってなかった。



「空君、さっきの話し聞いてた?」


「おじさん傷付いちゃう?」


「もうやめて、おじさんのライフがゼロに近い!」


「他は知らん」



葵よりも幹久の扱いに慣れているソラはさらなる大ダメージを与えると、どっかから持って来たのか大量のガンケースをゴトッと置いた。

格好も葵達と最初に会った時と変わり、今は真っ黒のコンバットスーツを着ていた。

動き易さを重視しているのか余計な防弾プレートは無く、銃のホルスター、マガジンポーチやナイフホルスターは全てを後ろに付けられている。



「で、どうする?本当にやるの?」


「少なくとも彼女はやる気満々みたいだよ」


「分かった。引く気がないなら潰すまでだ。ルールは?」


「15メートル先の的に得点が書かれている。そこを狙って撃つだけだよ。多く得点を取った者が勝者。実に簡単だろう?」


「簡単過ぎて嬉し涙が出そうだ」



そう言いながらソラはガンケースを次々に開けて射撃場に備え付けられた机に広げて行く。

出てくるのはアサルトライフルが二種類、サブマシンガン二種類、ハンドガン二種類、スナイパーライフル、ショットガンと多種多様な武器を広げて行く。

まだ爆発物が無いだけ救いなのだろうが、どの武器もレーザーサイトやドットサイトなどアタッチメントは取り付けられて無いのだが、どれも異質さを放っていた。



「3年の間に随分と増えたようだね」


「武器会社の重役を護衛してたらいつの間にか増えた」


「これなんかは3年前には無かったけど。これはどこで?」



幹久はソラが広げたアサルトライフルの一つ、今ではブッシュマスターACRとも言われるマグプル社時代のMASADAを拾い上げていじり始める。



「それはマグプル社の社長を護衛した時に貰った。なんでも俺に合うように再設計されたらしい」


「らしいとは君らしい」



このMASADAは外見こそ変わり無いが、どんな設計をし直したのかわからないが、普通じゃ無い事は幹久に伝わる。



「で、まだやる気はあるの?」


「当たり前です。私が吹っかけて置いて逃げるなんて出来る訳ないですもん」



そう言って葵は自衛隊の装備であるSIG社のP220を取り出す。



「そう……ならさっさと始めよう」



ソラは広げた武器の中からハンドガンベレッタ90-twoを掴み上げた。

ベレッタM92Fと雰囲気は変わらず、丸味を帯びてる分武器という威圧感が薄まっている。

しかし、葵には違和感しか浮かばない。

この銃は本当に普通なのか?と。

普通に見えない少年がこんな威圧の欠片も無い武器を使うとは思えないのだ。

そう葵が考えていると、ソラは90-twoにサプレッサーを取り付けた。

敵地でもないこんな射撃場で何故と葵は思う。



「では2人共、それぞれの場所に付いてくれ」



幹久に従い所定の位置に着く2人。

幹久の部下からいつでも大丈夫ですとOKサインが出る。



「では、始めよう。的の数は15、一つの的に当てられるのは4発まで。弾に制限は無い。……開始ッ!」



ズタンッ!ズタンッ!

リズミカルにテンポよく葵は手に握るP220で的に向かって銃弾を浴びせていく。

ハンドガンを持つような敵が描かれた的は心臓が穴だらけにされており4発心臓部へ撃たれる度に的が切り替わる。

弾の広がりも少なく普通を通り越してかなり優秀な成績だった。

心臓部へのヒットポイントも9と書かれており、かなりな高得点である。

3つ目の的で2発撃つとP220のスライドは後退しきり、弾切れである事を葵に伝える。

それを冷静にマガジンリリースボタンを押して空マガジンを地面に落とし、別のマガジンをP220へ押し込む。

ガシャッと音が響きマガジンが奥まで差さるとスライドストップボタンを元の位置に押して戻し、スライドを前進させる。

そして再度射撃を開始した。

全部の的を射抜き終わり、いつも以上に高得点に葵は内心でガッツポーズを決めた。

しかし、違和感を感じた。

隣りで銃声が一切しないのだ。

サプレッサーは音を全て消す訳ではない。

それを知ってる葵は隣りで音が一切しないのはおかしいと思い、撃ち終わるとソラへと視線を向けた。



彼は全く何もしていなく腕を組んで葵の射撃の一部始終を見ていた。



「何で何もしないんですか?」


「こいつに止められたからな。ちょっと撃つのは待ってほしいと」


「その止めたこいつは私だよ、葵君。彼には葵の射撃を見て欲しくてね。どうだった空君?悪く無いだろう?」



葵が怒る前に幹久は釘をさして、話題を葵の評価へと移し替えた。

これなら誰もが悪く無いと答えるだろう。

ソラを認めさせる為に幹久は策を使っていた。



「悪くは無い。下手な兵士よりはよっぽど優秀だ」



だけどとソラは付け加える。



「遅い。それじゃ至近距離の銃撃戦で死んでる」


「では葵君。次は彼の番だ。よく見ておきなさい」



ソラはサプレッサーを取り付けられた90-twoを構えると、直ぐさまトリガーを引き絞った。

ガシュッ!と減音されたのかどうか怪しい銃声が響く。

銃声はそれだけで終わらず直ぐに響く。

リズミカルに撃つ葵とは全く違う、連射に焦点を置いた撃ち方。

狙う的の場所は葵の心臓部だけでは無く、敵の持つ武器の銃を起点とし、脳天に一発、心臓に2発。

葵の当てるとは別の”殺す”を主とする撃ち方である。

それも葵が4発撃つ速度の倍でそれを簡単にソラは行っていた。

そして、リロードも銃自身(エジェクションポート)に一発残した状態で行うタクティカルリロード。

速さも身に染み付いたような流れ作業で、空マガジンは地面に落とさずに回収までしている。

最後は暇だったのか残弾全てを高得点箇所である、両目や喉元、頸動脈を狙っていた。

心臓部以外全て10点という高得点をポンポン出していた。



「これが差だ。戦場で弾は無駄に出来ないし、リロードも待ってはくれない。得点を気にせず撃ったが、俺の勝ちで問題は無いはず」



90-twoを腰のホルスターに戻しながら勝ち誇ったような顔で言うソラ。

葵には屈辱的だったが、得点的にはかなりな差として表れている。

それ以上に速さが違う事に悔しさを感じた。

葵はかなりな訓練を積んできた筈だった。

それをこの男は一瞬で無駄だったと言わんばかりな記録を叩き出した上に、葵以上の速さと正確さを出した。

葵のプライドはズタボロだった。



「これで分かっただろ。俺は1人で十分だ」


「空君が勘違いしてるようだから説明するけど……葵君は戦闘面でのサポートでは無く、情報面でのサポートだよ。主にオペレーターとして君をサポートするんだが」


「はっ?」



今日一番の間抜けな声が射撃場に響いた。

悔しさで一杯の葵を置き去りにして……




バララララッ!

勝負が終わり落ち着いた射撃場で銃声が響く。

ムスッとした顔のソラはクリスヴェクターを片手でぶっ放している。



「ねぇ、空君。ちゃんと伝えて無かったのは謝るよ。だから気を直してはくれ無いか?」


「別にその事に怒ってる訳じゃ無い。情報一つくれずに放り出した社長に怒ってるだけだ」


「結局は怒ってるのね……」



ソラの静かな怒りにゾクッと感じた幹久と葵の2人。

それでも葵は勝負の時に見せたソラの武器に付けていたサプレッサーの事を聞こうと重たくなっている口を開いた。



「あの、空さん」


「さんは要らない。歳は変わら無いだろ?」


「一つ聞きたいんですけど」


「敬語はやめろ」


「分かり……分かったわ。聞きたいんだけど。どうして武器にサプレッサーなんか付けてるの?強装弾なんでしょ?意味無いじゃないの?」


「マズルフラッシュを抑える為だ。マズルフラッシュで位置がバレたり閃光で目がやられるのを防ぎたいだけ。それと、強装弾使うのは弾速を上げて命中しやすくしてるだけ。大した理由じゃない」


「そ、そう……」



普通の男女の会話ならこんな物騒な話題では無いだろう。

しかしこの2人からはとても年頃の男女の会話とは思えない会話が繰り広げられる。

そして、葵の一言で完全に会話が止まった。

気まずくなってか余計に静まり返る。

「この2人、とても不器用だ」と幹久は思った。

葵は行動を起こすタイプであることはこの件で簡単に分かる。

ましてやソラは口より先に武器が出るタイプで器用とは程遠い。

そんな2人が揃えば間違いなく会話なんてモノは発展などしない。

だからこの状況へと至っているのだが……

しかし、ソラが意外にもその状況を打開してみせた。



「さっきは済まなかった。引かせる為とは言え散々な事を言った」



突然のソラの謝罪に幹久はおどろいた。

武器を抜く次に上手い皮肉が出てこないのだから。



「私も空の実力を見極められなかった。カッとなっちゃってごめんなさい」



不葵も同じく謝る。

不器用ながら2人は互いに認める事が出来たようだと安心する幹久。

今回の件が無ければソラは1人で仕事をこなすだろうし、葵は自分以上の実力者を知る事が出来なかっただろう。

決闘という形にはなったものの悲惨な結果に終わらなくて良かったと胸を撫で下ろした。

多分これ以上会話は続かなそうだと分かっている幹久は2人に聞こえる程の大きさで手を叩く。



「仲も邪険にならなくて良かった、良かった。早速だけどそろそろ時間だから今回の護衛対象と会って貰うよ」



ウキウキしながら射撃場を後にする幹久にソラは「なんであんな楽しそうなんだ?」と疑問に感じながらも幹久について行くのだった。

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