08 蟻んこが考えた結果
引き続き、ファミレスから実況いたします。桃花です。
ところで、ドリンクバーで困っちゃう事ってありませんか?
友達と利用して、1杯2杯。お腹たぽたぽだよってーのに、なぜかおかわりしちゃう。
会話はまだまだ尽きないので、更なるおかわりをしようかどうか迷う。
心情ではもういらん。しかし間を保つためには杯は満たされていなければ!
呪われたドリンクバー。うん、いまいち。
お前だけだって言われそうだが、私はそうだ。ペースが掴めない。
そうそうバイキングも苦手。ペース配分が下手。
なにが言いたいか、つまりあれです。
パスタ来る前にお腹いっぱいになりました。
「味方が欲しいなぁ……」
けぷっと出そうになる小さなげっぷを飲み込んでぼやく。
お腹いっぱい。不安もいっぱい。疑問もいっぱい。もう嫌だ。
正義の味方募集します。
「ゲームでは主人公以外の強いやつっていなかったの?」
「んー。狐先輩やナーガ、来虎って子達はそこそこ強いんだけど、結局、適わない。主人公に助けられるイベントしかない」
だって、そういうゲームだったもん。しかも負け=彼女達のバッドエンド。
「あ、でも。自分達と比べたら駄目だよ。彼女達にとっては人間とか蟻んこ。蟻んこレベル」
「蟻んこって、そんな弱っちいのかよ。俺ら」
桃樹が嫌そうな顔をする。そうだね、男の子だもんね。
「なあなあ、慶。お前のおじさんにそれっぽい知り合いはいないのか?」
「知り合いって、警備員の人達の事を言ってるの?
彼らは逆に由緒正しい人間だよ。身元や出自の怪しい人間を雇ったりしないから」
「そうかー。あ、じゃあ裏社会の知り合いとかは」
「君さぁ。俺の父親をなんだと思っているわけ?万一、いたとしても子どもに教えると思う?」
「だよなぁ~」
悪落ち時の鷲谷の場合は、鷲谷も親父も一族も真っ黒なんだけども。
フラグが折れたせいか、彼の周囲に黒い噂はない。
本日、帰りに送迎してくれる運転手の時任さんも、驚きの白さ。しっとりナイスミドルだ。
それにしても専属運転手ってすごいな。未だにびびる。
「分が悪い。良い手駒がいっこも無いよ軍師殿」
私は鷲谷にぶーたれる。
いや、彼に泣き言いってもどうにもならないのは分かってるのだけどね。でもね。鷲谷だし。
「そうだね、俺達は現実的な手段をとるしかないね。夕方遅くは出歩かない。怪しい人には近づかない。一人にならない。当たり前の事を徹底的にこなす事」
「友達には伝えてあるけどさ。もっとこう!なんかできないかなぁ?」
ぐぬぬ~ってやっていると桃樹にほっぺたをつままれた。
それもわざわざ隣の席まで移動して。なんだ!不満いっぱいで睨んでやる。
「ひゃにをひゅるか?」
「桃花さん。桃花さん。少しあれなお話ですが聞いてくれますか?」
「はにゃへ」
ついでに手も放せ。ちょっと痛い。
「桃花の言うゲームの被害者な。ゲームのヒロイン以外は、全員お前の知らない人間なんだよな?」
「ふぇ?」
「モブお姉さん、モブ子ちゃんA、B、C。モブ女医さん、お水のお姉さん、リーマン多数」
「ふぬ」
さっきから、ふがふが言ってるのは桃樹が手を放してくれないからだ。
桃樹は話しながら考えを整理しているのだろう。視線がちょっと右上だ。
考えに夢中になって忘れているパターンだこれ。痛いのだけど?
「その内、モブお姉さん以外は、ゲームが始まってから敵キャラが登場する時に殺されるのが決まっているわけだよな。そんで最初の事件の時に学校ではぼんやりした噂どまり」
「?ひゃにがいいひゃいひの?」
「つまりさ、ゲームが始まるまでは学校の子達は無事なんじゃないか?」
言いながら桃樹は手を離した。
そっか、漠然とした噂話で終わっているって事は、
身近に犠牲者がいない事になるのか。
身近な事件だったら、もうちょっと具体的に話が伝わるものね。
「だから安心しなさいってのはちょっと違うんだが。今は最低限できる事をする、でいいんじゃねえ?って言いたかったんだけども。納得した?」
「ん。なんだろう?凄いモヤモヤする」
「うん。だって切り捨てましょうって言ってるんだからな」
私も桃樹もへにょりと眉が下がって情けない顔だ。
友達とかクラスメートとか、身の回りの人は安全なんじゃないかって言う桃樹の話は理解できた。でも……
「トーカちゃん。殺人鬼が町をうろついていても、突撃なんてしないでしょ?
警察に任せて自分は注意するっていう常識的な対応をするのは普通の事だよ」
「……うん」
全ては主人公がミコちゃんと出会ってから。私はモブで蟻んこで今できる事は無い。
なにもどこも間違っていないのに。モヤモヤするのはなぜだろう?
二人に言い聞かせられてるのはなせだろう?
「ぶっ」
桃樹さんにチョップいただきました。キミねぇ。ちょっと暴力的過ぎる。
女子には優しく。女子には優しく。はい復唱。
でこを押さえながら、毅然として抗議する。お姉さんだもの。
「桃樹さん。貴方ちょっと女子に暴力的過ぎると思うの」
「これは親愛の情ってゆーの」
「無理があります」
断固拒否をする。
鷲谷はそんな私達を笑顔で見守りつつ、呼び出しボタンを押した。
キミはいつも傍観者だな。足して2で割るといいんだよ。
「まとめまーす。基本指針は変わりません。ただ、ヤタガラスの巡査には注意を。
それから、ぐれぐれもあやかしらしき人物には近づかない」
「はーい」
「まあ、本番はゲーム開始からって事で。今日は飯食って終わり。後は春休みしよーぜ」
桃樹さんにメニューを渡されながら言われたけれど、私は困っていた。
え?うん。ほら呪いがね。
「トーカちゃん、どうしたの?」
「はい。軍師さん。実はお腹すいてないのです」
「駄目だよ?」
「これっぽっちも微塵も。お腹たぽたぽなのです」
「駄目だよ」
「デザートだけ……」
「駄目」
だってだ。ドリンクバー飲みすぎちゃったんだもの。
当然、食べないって選択肢は選ばせてもらえなくて。私はお腹パンパンになって帰宅したのでした。
ああ、そうだ。桃樹にほっぺたみょーんとチョップの仕返しをしないと。
「桃花!お前っ」
「ふっふっふ。いい香りだね桃樹君」
にやりと笑う私に桃樹がいやーな顔をしている。
んふふ。ざまあ。
「ラグジュアリーフローラルの素敵な香りを堪能してくれたまえ。
ベッドにもほら!ピローミスト。特別だよ~」
「げっ」
だだだっとベッドに駆け寄る桃樹。ケケ。
「くっせー。まじで最悪!とうかぁー」
「ふはは。あまあまフローラルとムスクの強烈なコラボ。これで安眠できるならしてみるが良い!」
ビシリとポーズを決めてやると、桃樹はひくりと顔を引きつらせた。ふっふー。
身体能力じゃ適わないからにして。桃樹への仕返しに選んだのは香り。
桃樹の苦手なあっまい香りをこれでもかと使用してやった。
香りが強い入浴剤にピローミスト。
微かになら大丈夫な桃樹もこんだけやれば半泣きになる。
ミストはもちろん混・ぜ・た。あはっ。
鼻もむずむずしている事だろう。
くくく。枕、布団、シーツ、パジャマ。全部にミストしたった。
ワタクシまじ悪女。
ちなみにこれ、明日には匂い飛ぶし。
「くっそ。リビングで寝る」
「ふ。甘いな。ソファーもミスト済みだ。抜かりは無くってよ!」
「鬼!!」
仕返しが終わり、もやもやも少しだけすっきりした私ですが。
ブーメランやらかしました。
安眠を求めてウロウロしていた桃樹さん。
よりによって、こっちのベッド入ってきやがった。
「桃樹さん臭い」
「…………」
「臭い」
「……俺、もう鼻慣れたもん」
「じゃあ、自分のベッドに帰れ」
「無理。あっちは無理」
「臭い」
「だれのせいだと」
「臭い」
「…あっそ」
華麗な復讐って難しいね。
仕方ないから臭いを連呼してやった。軍師さん最近、弟が可愛くないです。
もちろん、二人とも他の異性にはこんな事できません。
姉弟の距離なら共寝は普通にできると思うのですが。どうなんだろう。
そろそろ、もう少し先に進みたいところですが。閑話に進んだため悩んでます。
お読み下さいましていつもありがとうございます。
6/21SPを→警備員の人達に変更しました。すみません。




