4.キヨ
4.
クサキは優しい。
いつも怖い顔をしているから余り人が近寄らないけれど、彼は優しくて甘い。
仕方がないといって僕を甘やかしてくれる。たまに本当に傷つくときもあるけれど、クサキはいつだって僕に悪意とか嫉妬とか嫉みとか、そんなものをぶつける前に口で伝えてくれるから、そんなに痛くない。
クサキの家は、いつもどんな天気の日でもお日様の中に居るみたいに
ポカポカしていて暖かい。
クサキが居るときは、良く近所の野良猫が来て庭先でゴロゴロしているし、
良くなついている猫なんかはクサキにくっ付いて昼寝してる。
でもクサキってば休みの日もバタバタしてるから、ひょいって猫を抱き上げて私に渡してくる。
その時の猫の顔はいっつも残念そうでちょっと笑える。
クサキのバタバタしてる音は、うるさく無い。
誰かが側にいてくれる安心する音。
たまにクサキの一人言が聞こえて来たりする。
今日の目玉焼きがうまく焼けたとか、お茶が美味しいとか。
最近のクサキは特に庭の紫陽花が咲くのを楽しみにしてる。
だから私が帰ってくると、彼は縁側でボーっとしてる事が多くなった。
「ただいま」
と私が玄関で言う。
「ん、おかえり。手を洗ってうがいしろよ」
とクサキが言う。
クサキは当たり前みたいにその台詞がでる彼は、キチンとした家の人。
大切に育てられて、きちんと生きる事を教えられた人なんだと思う。
さすがに初めて言われたときは驚いたけど。
でも、そうやって心配して貰える事が私は好きだ。
だから私はクサキにお帰りって言われるまで家に上がらない。
クサキのなんで家に入らないんだって顔も好きだし、なによりお帰りって言われたいから。
お帰りって良い言葉だよね。
待っていてくれる人が居るから言ってもらえる言葉だもの。
まぁ一度、度が過ぎて怒られたけど。
熱が出たときも、ずっと側にいてくれた。蜂蜜大根なんて初めて食べたよ。
でも、そうやって心配してくれてるんだよね。
とても、とても優しい人なんです、彼は。
彼の優しさに触れてしまうと、あの無機質なマンションの部屋には帰れなくなった。
誰もいない無駄に広いあの部屋。
窓の外に見える光の一つ一つが家族の明かりかと思うと夜も眠れなくなった。
でも今はその光の中にいる。
私に馬鹿と言うのはクサキだけ、私をキヨと呼ぶのもクサキだけ。
風邪を引いても側にいてくれる人が居る、一緒にご飯を食べてくれる人が居る。
それが、温かいって事だと初めて知りました。
(ちなみに、クサキの桃缶には落ち込むなよ。のメッセージが隠されてます。おかげで桃缶好きになっちゃったよ)




