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目指せリリカル島!!
先週うちに居候中の宇宙人が風邪を引いた。
(あ、家賃と光熱費貰ってるから居候じゃないのか…店子?まぁいいや)
未だ全快しておらず、こほこほと咳をしているが今日は日曜だし、ゆっくり体を休めればそれもそのうち治まるだろう。
他にも実家からの忠告を聞きながら、体によいものを必死に食べさせている。
「クサキ、看病してくれてありがとう」
「まったくだ。さっさと良くなれ」
宇宙人の顔はなんとも嬉しそうで、そんな顔をするようなことを俺はした覚えは無いからこっちとしては混乱するばかりだ。
まぁ宇宙人の考えることなんて俺には分からないから、宇宙人が嬉しいならそれはそれで構わないのだが。
「来週ゼミの発表があるんでしょ」
「まぁな」
「私のことはいいからさ、準備して大丈夫だよ」
変なところで律儀な宇宙人がそういうのならと、俺は自室に戻ることにした。
まぁ何かあれば言ってくるだろうし、何だかんだで頭がいいはずだから大丈夫だろう。少しむっとした自室に入ると、すぐに窓を開けた。
冷たい空気が通り抜け雨の匂いがする。
ここの窓からは庭を見ることが出来る。
大叔母はこの部屋を寝室として使っていたと祖母に聞いた。
大叔母には子どもがいない。だからだろうか、僕は大叔母にとても可愛がってもらった。優しくて大好きな人だった。
一緒には住んでいなかったけど家族だと今でも思っている。
暫く熱中して課題である発表準備を進めていると時間はあっという間に過ぎ、夕方になった。午前中から降っていた雨は止み、空は綺麗な夕陽を見せていた。
「クサキ、夕飯できたよ」
「キヨが作ったのか?」
さすが宇宙人。なんでも出来るというのは本当なのだろう。
食卓には3品のおかずと温かなご飯に味噌汁が並べられていた。
「体調は?」
「うん、大丈夫」
この宇宙人が居候に来てから、俺の外食の日数は確実に減りそれと並行するように宇宙人と夕食を食べる日が増えた。人は、誰かが居れば一緒に食事を取ろうとする生き物なのかもしれない。この宇宙人だって子どもの頃は両親と食事をしていただろうし。
「クサキ」
「なんだ」
「この前の菖蒲湯気持ちがよかった」
「そうか。体調が完全に治ったらまたしてやる」
次は薄荷にしようか、喉に良さそうなイメージがあるし。
「うん」
この宇宙人はどうでもいいことですぐに喜ぶ。どうしてか、それが時折とても哀しい事に思える時がある。それは、大叔母が一人でこの家に暮らしていた時に感じたものと似ている様に思えた。
宇宙人と向かい合い、宇宙人の作った煮物に舌鼓を打っている。
「煮物旨く味がしみてるなぁ」
「クサキの指導の賜物だね」
「お前、何食って生きてたの、ってなくらい食生活崩壊してたもんな…」
思わず遠い眼になる俺。
上達したなぁ〜としみじみ思ってしまう。
「クサキが手取り足取り教えてくれたしね…。もう私クサキが居ないと
生きて行けないかも」
「さてはお前、まだ熱があるな…寝ろ」
俺的には地球外生命体である宇宙人は恋愛対象にならんので無視する。
こっちは休日とはいえゴロゴロいて居られないのだ。ゼミの発表もあるし、前期のレポートも書き上げなきゃならん、つまりは忙しい。
食事も食べ終わり、俺が茶を飲んでいるときだった。
「クサキ、私のレポートあげようか」
「は?」
とうとう宇宙人は熱で頭を損傷したらしい。馬鹿になったか、とは言えないので
「熱が上がったか?」と手をキヨのおでこに当てる。
うん、特に熱い感じはしない。
「クサキにはお世話になってるし、別に一つくらい単位落としても…」
「それ以上言ったら、この家からたたき出すぞ」
あ、病人に病宇宙人にドスの聞いた声だしちゃった、けど今のはキヨが悪い。
「俺はそういう狡は嫌いだ、それに俺はキヨじゃないからキヨと同じ考え方は出来ない。よってキヨの書くレポートは俺のレポートにならない。俺の考え方、感じた事がレポートに書いてないと意味がないだろ。キヨは頭が良いはずなのに、実は馬鹿だろ」
ふん、と鼻で笑ってやる。ふんだ。
「……うん、そうかも」
あ、キヨが泣きそうな顔をした。まったく。これじゃ俺が悪いみたいになる。
「ほれ、さっさと寝ろ。まだ調子が良く無いから下らない事を思いつくんだろ。
寝てさっさと治せ」
俺はキヨを布団に押し込み、引き戸を閉めてから少しだけ開けた。
「クサキ」キヨの部屋からくぐもった声が聞こえる。
どうやら布団の中から話をしているらしい。
「なんだ」
「うん。……ごめんね」
まったく、と思い小さくため息をつく
「調子が悪いんだ、気にするな。夕飯美味かった。具合が悪いのにありがとうな」
「………、うん。」
ちゃぶ台の上を片付けて、一つ隣りの自室に戻り課題とレポートを進める。
気が付けばどうやらキヨは寝たようだった。
相変わらず何を考えているか分からない奴だ、と思うが宇宙人だから仕方がない。
(今日の事で変に落ち込まなきゃ良いが…、仕方ない明日はおやつに桃の缶詰を開けてやろう。そうすりゃ嫌な事も忘れるだろ…うん)
庭の紫陽花がそろそろ咲き始めを迎えていた。梅雨は近い。