私と死神。1
「八坂紫帆。あなたは死にました」
闇というよりも無。自分たち以外に何もないといっても過言ではない空間で、彼女は、死神に出逢った。
彼女――八坂紫帆は、鮎河高校二年一組に所属している――正確にはしていた。六月の半ば、彼女は死んでしまった。
「――ちょっと待ってよ。そんな話、信じられるわけないじゃない」
紫帆は、死神だと名乗る、自分と同じくらいの歳の少年が言ったことを、即座に否定した。
「別に、信じなくても構いません。これが真実だということは確かですから」
と、紫帆がが信じないことなど意に介さないように彼女をを見る。相手の姿は見えるものの、感情は読み取れない。
「……じゃあっ、私はどうやって死んだっていうの?」
「殺されたんです。日下部稔に」
「――っ! ふざけないで! 稔がそんなことするわけがないでしょ!? それに……!」
紫帆の一番の親友の名前が唐突に出てきて、戸惑い、そして憤った。
「稔は! 稔は……」
「はいおっしゃる通り。彼女は一週間前に、ビルから飛び降りて、亡くなりました」
悲しむことも、面白がることもなく、事実を淡々と口にする少年。
「ここは死後の世界。彼女の魂は自殺した後、本当なら、ここではなく、死後いく場所を決める部署に逝くはずでした。しかしどういうわけか、僕のところにやってきました」
それを聞いて、紫帆はなにもない部屋をもう一度見渡す。
「ここはどういう部署なの?」
少年は、数秒迷い、
「…………秘密です」
と答えた。
「なにそれ……。まあ言われてもわからないと思うからいいけど」
本当なら追求したかったのだが、それよりも話の続きを優先させた。
「彼女はまだ、やり残したこと、未練があると僕に話しました。その話に『死神』の長は興味を持ち、助力することを決めました。具体的には、誰かが代わりになることで」
「未練……って稔は自殺したんでしょ? 未練があったの? ――それに、聞こえは悪いけど、親友の私を殺して生き返るなんて!」
「では、それが未練だったんでしょうね」
少年があまりにさらりと言うものだから、紫帆は理解ができないという顔になり、少しの時間、動きが止まる。すぐに理解を終えた紫帆だったが、理解したら理解したらで、認めたくなくなってしまった。
「そんな、わけない……! そんな……」
誰かに嘆願するように何度も呟いた。しかし、紫帆の声が聞こえなかったのか少年は構わず先刻の言葉の先を口にする。
「――彼女の、日下部稔のやり残したこととは――」
あなたを殺すことですよ。