まおう、まい子になる!!
一か月近く空いてしまいました……。
見てる人が少ないのがせめてもの救いだと思って頑張ります!
王都の周りには、三つの町がある。
王都は周りが川で囲まれていて、その川を挟んで三つの町が王都を覆うように建っているのだ。
勇者と魔王はそんな町の一つに入ろうと、関所に並ぶ列に並んでいた。
「次の者は前へ」
関所の兵隊が大きな声で呼ぶと、やっと勇者たちの番だ。
「男一人と、こっちは妹……に見えるかも知れないが妻だ」
勇者が妹だと言いかけると、横腹を抓られて言い直す。
「ゆうっ……!?」
そこで兵隊が「勇者様!?」と叫びそうになったのを慌てて口を塞いでおく。
勇者は国中で有名な為、かなりの変装をしないとばれてしまうのだ。
「勇者様?」
魔王がいつまでも兵隊の口を塞いでいる勇者を見て首を傾げる。
「あ、ああ。先に入っていてくれ、オレは少しこいつと話す事がある」
勇者はそう答えると、兵隊を関所の端に連れて行く。
「勇者様、あの女は誰ですか?」
「……妻だ」
兵隊の質問に答える勇者だが、答えの前にある間が空きすぎている。
「若しかして、村娘をおそっ……」
兵隊は最後まで言えずに頭を叩かれる。
しかし、叩かれた兵隊は急に表情を硬くした。
「では、魔王ですか?」
「……」
その言葉に勇者は言葉を濁しす。
「魔王城はまだ消えていません、それなのに勇者様は帰ってこられました。それも、娘を連れて。今回の 魔王は女性だという事は誰もが知っています」
勇者は額に汗をかきながら聞いていたが、最後の言葉に反応する。
「何だと!?オレは魔王が女だとは聞いてなかったぞ!!」
言葉を発するとすぐに、勇者は自分の口を塞ぐ。
「言いましたね 」
しまったと思っても既に遅い、兵隊は直ぐに紙を出す。
「待て、オレはまだ負けてはいない。魔王を確実に殺す為に油断させているのだ。油断したところで寝首をかくんだよ」
しかし勇者も黙ってはいない。
直ぐに言い返し、最もらしい事を言う。
「仕方ありません、そういう事にしておきましょう」
兵隊はそう言うと、関所の行列にもどっていった。
「えっと、あいつはどこだ?」
勇者は関所を抜けると左右を見回して魔王を探す。
しかし、道の端で商売をするものや、井戸の周りで井戸端会議をしているおばさましか見当たらない。
「お〜っい」
流石に魔王と呼んでまわる事もできず、とりあえず探す事にした。
関所の周りには居ない。井戸の周りにも居ない。宿や果物屋さん、居酒屋にも居なかった。
「腹が減った訳じゃないのか」
勇者は呟くと、一安心したようだ。
魔王はお金を持っていない為、腹が減っても食べ物を買えないからだ。
しかし、見つかるまでは安心しきることはできない。
勇者は宿をとると、また魔王さがしを始める。
今度は町の中央近くまで行く。町の中央には大きな建物が並んでいて、いわゆる金持ちが住んでいる区画になる。
金持ちが捨てた食べ物を拾うために、路地裏にはスラムが出来ていて治安はよくない。
そこに、女一人の周りを取り囲む男の集団を見つけた。
「お前たち、何してる!!」
勇者は男たちに怒鳴りつける。
「あ?何だよ、兄ちゃんもこの嬢ちゃんと遊びたいのか?」
男たちはそう言いながら女の腕を掴んでこちらに向ける。
「違ったか……」
勇者は小さく安堵する。
「いや、遠慮しておく。後、警備兵に伝えておこう」
「おい、てめぇっ!」
勇者がそう言って踵を返すと、男たちが声を荒げる。しかし、勇者が羽織るマントの色を見ると一目散逃て行った。
「あの……ありがとうございましたっ」
助けられた女が礼を言った時には、既に勇者の姿はなかった。
その後も町のいたるところを探したが、魔王の姿はない。
勇者は諦め、公園で休むために丘に向かう。
丘の上にある小さな公園に入ると、隅に見知った姿を見つける。
ブランコに座り、うつむいているようだ。
勇者は後ろからブランコに近づいていく。
「こら、勝手に消えるな。お前が魔王だとばれれば大変な事になるんだからな」
その言葉に魔王は小さく飛び上がり、後ろを振り向いた。
「ゆうっ……しゃ、さま…………」
魔王の頬に一筋の流れ星が通る。すると、堰を切ったように魔王が泣き喚きだした。
勇者は狼狽えて何もできないでいる。
数分もすると、魔王が落ち着きを取り戻した。
「で?なんでこんな所に居たんだ」
勇者が少し厳しい顔をして問い詰める。
「今日、町のお祭りだと聞きました。そこで、勇者様にお礼をしようと思いまして……」
「大方露天を見てるうちに道に迷ったって所か」
勇者の言葉に魔王は小さく頷く。
「オレとしては、お前が魔王だとばれない事が何よりの礼になる」
魔王は勇者の言葉で更に小さくなった。
勇者はそれを見ると、頭をかいて立ち上がる。
「ほら、帰るぞ」
「……」
勇者が声をかけるが、魔王は座ったままだ。
「手……」
「て?」
「手を繋いでくださるなら帰ります」
魔王の言葉に勇者はため息をつく。
「何を今更。この前は無理やり腕を組もうとしてただろうが」
そう言いながらも、勇者は手を差し出す。
魔王は勇者をちらりと見ると、その手をとって立ち上がった。
宿に向かう途中、二人の間に言葉はなかった。
宿へ向かう途中、開けた広場にでた。
そこでは火が焚かれ、その火を囲むように幾人もの男女が踊っている。
「……」
魔王はその光景に立ち止まり、勇者は危うくこけかけた。
「なんだ?興味でもあるのか?」
「……」
男女の踊りに魅了された魔王に、勇者の声は届かない。
「ほら、行くぞ」
踊りを眺め続ける魔王を見て、勇者は手を引く……火と男女が揺らめく広場へと。
あっけに取られた魔王は直ぐに頭を再起動する。
「私は踊りなどした事がありません」
「なら今してみればいい」
「で、ですがっ……勇者様のお足を踏んでしまうかも知れません」
「オレが踊りたくなったから踊るだけだ、オレが無理やり引き連れたんだ。そもそも、お前に踏まれた所で痛く無いわ」
反論虚しく、どんどん歩を進める勇者。
魔王は観念したのか、勇者に任せて歩く。
踊る男女の周りで奏でられる音楽に合わせ、ゆっくりと体を動かしだす二人。魔王はぎこちなく動き、 勇者は余裕の表情で動く。
最初は手を繋ぐだけの踊りだが、夜が耽るにつれてテンポが上がる。それにつれて腕を組んだり、回る動作が増えてくる。
深夜に差し掛かるかという時に音楽は終わりを向かえた。
音楽が終わると人も少しずつ減って行き、残った二人の男女には優しい月あかりがさしていた。