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勇者、魔王の初めてを奪う!?

 勇者と魔王は順調に旅を続けていた。

 何かトラブルに巻き込まれるということも無く、今上っている山を越えた先にある町を目指していた。

 そろそろ峠にさしかかろうという時、前方になにやら小さな点を見つける。

 どうやら人が二・三人、人が居るらしい。

「魔王、頼むから何も言わないでくれよ?」

 勇者が心配そうに魔王を見る。

「それ程私が信用なりませんか……」

 勇者の言葉に隣を歩く魔王は肩を落としてしまう。

 二人がそのまま進むと、その点は次第に人の形になった。頭にはバンダナ、髭は伸び放題で真ん中の男は幅広の剣を、後ろの二人は弓を持っている。

「お前ら! 命が惜しかったら身ぐるみ全部置いて行きな!!」

 集団の頭と思われる、幅広の剣を持った男が叫んだ。

「そっちの嬢ちゃんはそそるねぇ、俺たちが可愛がってやるよ」

 その後ろにいた弓を持った男の一人が、下卑た笑みを魔王に向ける。

 勇者は呆れた様子で長いため息を吐くと、魔王を背中に隠して腰に下げた剣を抜く。

「生憎こちらのお嬢さんはお前らとは釣り合わないんでね」

 勇者がバカにした様な口調で頭に言い返すと、頭は顔を真っ赤にして勇者を睨む。

「それじゃ、問答無用で奪い取ってやるよ! お前ら、殺っちまえ!!」

 頭がそう叫ぶと、左手側にある斜面から八人の盗賊が駆け下りてきた。

 右手には崖が、左手の斜面からは八人の細長い剣を持った盗賊が、前は頭を含めると三人が居る。とても一人で相手に出来る人数ではない。しかも、前にいるうちの二人は弓を持っているのである。

「――くっ」

 それでも勇者は、斜面から降りてくる盗賊の攻撃を右や左へと剣を動かし、剣の軌道をずらすようにして捌いている。

 すると突然、勇者に群がっていた盗賊たちが同時にバックステップをして距離を取る。

その瞬間――。

「放てーっ!!」

 頭が発した声に合わせ、後ろにいた二人の盗賊が矢を放った。

 勇者はとっさに避けようとするが、立ち位置が悪かった。矢の軌道上に勇者と魔王が一直線に並んでいたために避ける事が出来ないのだ。

「勇者様っ!」

 魔王は勇者に駆け寄り、その腕に抱き着いた。

 するとその瞬間、飛んできていた矢が急に失速すると、じめんに音を立ててに落ちる。

「「「「!?」」」」

 そこに居る全員が驚きの表情をした。――もちろん、勇者も目を見開いている。

 しかし、勇者は直ぐに状況を理解して頭を再起動する。まず考えるべきは何故矢が止まったのかだろう。

 勇者は、魔王が来た事で矢が止まったのではないかと仮定を立てた。

「魔王、お前は攻撃を無効化する魔法が使えるのか?」

 勇者は盗賊たちに聞こえないように魔王に尋ねる。

「全部では無いですけど、ある程度なら」

 魔王も勇者にならって小声でこたえる。

 勿論戦闘中に休憩などないため、話しをするべきでは無い。だが、幸いにも盗賊たちは先程起こった現象のために、未だショックから立ち直っていないようだ。

「わかった。魔王、その身体を少し借りるぞ!」

 勇者は有無を言わせぬ勢いで囁くと、剣を持っていない左手を魔王の腰に回して抱き上げる。

「勇者様!?」

 魔王は急に抱き上げられたことに驚いて手足をバタバタと動かすが、勇者が抱く力を強めると大人しくなった。

「……」

 そして、勇者が小さな声で詠唱を済ませると二人は軽い浮遊感に包まれる。

 その浮遊感が安定し始めると、勇者は盗賊たちに向かって走りだした。それは人を一人抱いているとは思えないような早さである。

 盗賊たちもやっと状況を理解したのか、勇者たちに再度攻撃を仕掛ける。剣を持った八人が二人一組で代わる代わる剣を振る。時々全員が距離を取り、頭のかけ声に合わせて矢が飛んでくる。盗賊とは思えないような連携だ。

 しかし、勇者は魔王の魔法で盗賊たちの攻撃を避ける必要もない。盗賊の振るう剣は見えない壁に押しとどめられ、勇者の重い一撃が盗賊を無効化してゆく。

 その姿はまさに、戦場を駆けるチャリオットのようだ。

 元々盗賊たちは防具と呼べるような物を着ていなかった為に、瞬く間に全員制圧されてしまったのだった。

 勇者と魔王は盗賊たちを縄で縛ると、左手の斜面に放置する事にした。

 簡単に調べてみると、どうやら傭兵崩れらしいという事がわかった。町に着いたら兵隊か偉い人に伝えれば良いだろう。

「ところで勇者様?何故浮遊魔法を使ったのに走っていたのですか?」

 魔王は勇者に、先程の戦闘で疑問に思った事を聞く。

「普通、人は空を飛べないよな?」

 勇者は出来の悪い弟子でも見る様な目で魔王を見ると、説明をしだした。

「空を飛べる奴は珍しい、珍しいモノってのは目立つもんだ。そしてオレは勇者でお前は魔王だ。目立ったら面倒な事になる」

 勇者の説明で納得したのか、魔王はしきりに首を縦に振っている。

「つまり、勇者様は怪しまれない為に、あまり浮かずに走る動作をしていたのですね」

 だが二人は、普通、人を一人抱えながら勇者のように早く動けないという事には一向に気がつかないのだった。

「さて、そろそろ出発するか」

 勇者はそう言って歩き出す。

 魔王は小走りで勇者を追い掛けると、勇者の右腕に自分の腕を絡ませた。

「お前っ、何してんだ!?」

 勇者は驚いて魔王の手を剥がしにかかる。しかし魔王も負けじと更に身体をくっつけていた。

「勇者様は先程、人前で恥ずかしい事を私にいたしました。それに比べてこの様なもの」

 魔王は口を尖らせて勇者を攻めるが、思い出したように頬を赤らめて顔を伏せる。

「ふ・か・こ・う・りょ・く・だ!!」

 勇者も意地になったように腕を剥がそうとする。

「それでも、私は初めてだったのですよ!?私の初めてを勇者様が奪われたのです……」

 勇者が右腕を見ると、魔王は瞳の端に涙を溜め、上目遣いで勇者を見ていた。

「オレだって初めてだったよ!!」

 しかし、勇者は怒ったようにそう言うと、魔王を引き剥がして歩き始める。

「勇者様の初めて……」

 魔王は何かを呟いていると、置いて行かれている事に気が付き、小走りに勇者を追いかけた。

「ふふっ……」

 勇者に追い付くと、口に手を当て小さく笑うのだった。チラチラと横の勇者を見上げながら。

 二人の前方には町の外壁が見え始め、町の活気が伝わってくる。そして二人は、並んだまま町に向かって足を進めるのだった。

 町に着いたら何をしようかと考えながら。

1話目からずいぶん時間がたってしまいましたが、2話目の投稿となりました。

当初の予定では3話完結だったのですが、場面の切り替えが難しく4話完結の予定になってしまいました。計画性の無さに涙が出そうです……。

最後に、この駄文を読んでいただきありがとうございました。良ければ最期まで読んでいただけると嬉しいです。

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