5. シノブ・カキザキは不在?
瞬いた。
カーテンの隙間から、朝の光が一筋差し込んでいた。
体を起こし、あくびを一つ。薄く涙の浮かぶ目を擦り、その部屋唯一の光源がカーテンであることに気付く。
「ん?」
ここは、どこだ。
***
二人の兄弟がいたとして、
その兄弟は、長い時間を時に励まし合い、時に互いを敵として戦った。
やがて二人が離れる時が来た。
その地を去る方と残る方は、肩を抱き合い別離を嘆き、しかしともにこう言った。
わたしたちは、長らく会えないだろう。そして会わない方がいい。
***
かちゃかちゃ。ごしごし。
忍はエーリッヒが唸りながら書類を作る横で、銃の手入れをしていた。
こういう時代なのだし、これはないんじゃない?と言いたくなるが、兵士たちには何故か銃が支給される。だって未来だよ?人類は宇宙に出てるでしょ?と言いたいところだが、支給されているものは定期的に手入れしなくてはならない。なんでだ、と考えるとシノブの記憶は細々と理由をあげているが、正直忍は興味がないので考えるのをやめる。
ナスターシャでは混乱していたせいもあり、正直やったことないし、実弾を撃つ人も殆どいないし、意味はないんじゃないかと忍は勝手に銃の手入れを怠っていたが。エカテリーナに合流して、数々の支給品の中の銃をみて、仕方ないからと練習を兼ねて銃の手入れをすることにしたのだった。
エーリッヒが立ち上がり、コーヒーを飲むかと忍に尋ねる。書類作成の進行状況を聞きたいものだが、それを尋ねられないようにするためか、エーリッヒは忍にコーヒーを押し付ける。暇つぶしにか、ニュースの音声放送が流し、エーリッヒはぼんやりとコーヒーの湯気を顎に当てていた。
「このままだと出生法が通っちまうのかな」
忍は首をかしげ、エーリッヒが眉間の皺に指を押し付けて揉みこむのを見ていた。
「あんなの、誰でも、良いわけないってわかってるのにな」
忍が黙っていたのは、事情がよくわからなかったからなのだが、エーリッヒは忍の沈黙を肯定と受け取ったようだった。