1. 瞬きしたら
瞬きしたら、コックピットだった。
「んなぁ?!」
叫んだが、のけぞった瞬間に、ガツっと音がした。視界の悪さとか締め付け感から、ヘルメットをしていると分かる。音の割に、頭には何のダメージもないんで、さぞかし優秀なヘルメットなのだと分かった。
何枚ものモニターと沢山のボタン、あとレバー、足元は何かペダル、重要そうにカバーに覆われた赤いボタンには悪い予感しかしない。
手はグローブに覆われて、・・・手?これが?
「ゴツイ・・・」
誰も送ってくれないが、指輪のサイズは11号だったはずだが、覚えているよりも、いかなグローブごしとは言え、ごつ過ぎる手だと思われた。というか、グローブは何製なんだろうか?庭の手入れ用の皮手袋ともむろん、軍手とも違う、なかなかフィットした感触のある手袋である。
「いやそうじゃなくて」
と、出てくる声も何となく低い感じが・・・。
たぶん、これはコックピットとかじゃなくて、重機の操作席で・・・何て重機は動いているのを遠目に見るぐらいしかしたことはない。どちらにしても機械を触るような生活ではないはず。
などと考えている間に、胃のあたりにひやりとする何かを感じる。そう、ブランコに乗った時、ジェットコースターに乗った時、エレベーターに乗った時、飛行機に乗った時に一瞬だけ感じる浮遊感。が、先ほどから、浮き上がるような感じを得たきり、ずっと続いているのだ。
「動いて・・・る?」
『―――キザキ、カキザキ!返事はどうした!』
「はいっ」
応答しなければ、と思うと意識しないうちに手が伸びて、点滅したボタンを押す。
「発射前チェック、オールグリーン。シノブ・カキザキ発進準備整いました」
『管制室より許可は出ている。すぐに出なさい』
「はい」
口が勝手に動いて、手はレバーを引きおろしてハンドルっぽい棒を握り、足はペダルを踏み込んだ。
『初陣、健闘を祈る』
「ありがとうございます。行ってきます」
ぶつんっと切れて、通信が途切れる。感謝の言葉は教官に伝わっただろうかと考えた。だれが?私が。手も口も勝手に動いた。教官って誰だろう、と思えば顔も名前もすぐに浮かぶ。どちらかというと、憎たらしい記憶がよみがえる。私が体験したわけでもないのに。
・・・しかし、柿崎 忍は私の名前だ。
どういう事なんだろう?などと考えて続けていた私は、初陣という言葉をすぱーんと忘れていた。これが重機の操縦席じゃなくて、何かのコックピッドで、不吉なカバー付きの赤いボタンが何を示すのかなどさっぱり思いつかなかったのだ。
後で、諸事情は横に置いて、この話をした時に、エーリヒは緊張感のない奴なのは昔からだな、とずいぶん笑った。
思い返しても、自分が何者かを考えるには、初陣という場は全くふさわしくはなかった。いやしかし重要なことだと思う。
なにせ、私こと柿崎 忍は女性で、この体のシノブ・カキザキは男性だったわけだし。