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13.瞳は語る

長らくお待たせして申し訳ありませんでした。

「おい、あいつはまだ戻ってきてないのか」


ディオンはいつまで経っても姿が見えないシャーロットを不審に思い、貴族たちの輪を無理やり抜け出してウィルヘルムに声を掛けた。

ウィルヘルムは薄く微笑みを浮かべたまま、グレイシアたちを見やる。


「ヴェニエス侯爵の息子と庭園の奥に行ってたよ」

「なっ・・・・・!」


思わず声を荒げると、すぐさまウィルヘルムの人差し指が唇にあたった。

よく見れば、ウィルヘルムはいつも通り微笑んではいるが、瞳の奥はひんやりとしている。

その瞳に含む感情に、ディオンは少し眉間に皺を寄せた。

冷徹、残忍、そして同情。

様々な色の言葉が一瞬瞳に映り、ディオンはその瞳の真意に疑問を抱く。


「しょうがない。『お茶会』の目的は最初から炙り出すことだったんだからね」

「聞いてないぞ・・・・!」

「そう?僕たちも察しただけだけどね。しかも僕の記憶が正しければ、アレはヴェニエス侯爵の息子じゃない」

「・・・・・・なんだと?」


確かにヴェニエス侯爵の息子が挨拶に来たときは、珍しいものだと思ったのだ。

なんせ、ヴェニエス侯爵の一人息子であるトール=ヴェニエスは体が弱く、屋敷から一歩も出ないというのは有名な話だ。

そのせいか、ヴェニエス侯爵は結構な老年ではあるが、未だに後継が育たないためか表舞台に出ている。

今日のようなお茶会や夜会なども、ヴェニエス侯爵が基本的には1人で参加しているのが常だった。

殿下という立場にある自分ですら、ヴェニエス侯爵の一人息子とは未だに一切面識がなかったので、驚いたのだ。


「ヴェニエス侯爵の屋敷に招待されたときに、屋敷内で迷ってしまったことがあってね」

「・・・・・・・・・わざとか」

「人聞き悪いなあ。その時にとある部屋に入ったら、そこがトール殿の私室だったんだよ」

「・・・特徴は」

「明るい金髪に紫の瞳。外に出ないせいか、白いし細いし・・・・・・まあ、お茶会に出席できるほどの体力もないだろうね」


ウィルヘルムはにっこりとほほ笑んで、「偽者だね」と言い切った。

シャーロットの少し青白い顔を思い出し、思わずぎりりと歯を食いしばる。

縋り、腕に絡まった指の冷たさは尋常ではなかった。

お茶会に出席する前には薄紅色をしていた唇も、色をなくしていた。

おそらく、あれは。


「なんで、それを早く言わなかった・・・・!あいつは・・・・・」

「だから、わかってる(・・・・・)って君に言ったんだろう、シャーリーは」

「・・・・・・・っ、様子を見てくる。ここは頼んだ、ウィル」


思わず険しい表情を浮かべ、ディオンは庭園に向かって踵を返した。

殿下の異様な雰囲気に気づいたのか、周りの客が戸惑うように道を譲っている。

このままではお茶会が台無しになりかねないなあ、とウィルヘルムはため息をついた。

シャーロットが主催したのだ、変な噂が立っては困る。

それこそ、首謀者の罠かもしれないのだ。

にぃ、とウィルヘルムは口の端を釣り上げた。

シャーロットも『狩り』をしている。

こちらも逃がすわけにはいかない。


「さあ、そろそろ時間だよ」


すぅ、と視線をキースに合わせ、キースが微かに頷くのを確認したウィルヘルムは、何事もなかったかのように先ほどまで殿下に群がっていた貴族の相手をすることにした。


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