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一話物語  作者: 虹乃 咲
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無口な王とお喋りな王Sideアイーシェ

無口王とお喋り王のアイーシェ側からの物語ナウ




 最近、アイーシェは不思議な気持ちのまま国王レオハルトを迎えている。

 今、目の前にいるレオハルトは微かな笑みを浮かべて自分を見つめているのだ。彼の視線は心地よいものだが長い時間見られていると落ち着かない。


「な、何ですか? 人をずっと見つめて。そのように見つめられると邪魔です」


 本当はこんなことを言いたい訳ではないのに生まれ育ったプライドの高さからか、心にも思ってないことを口に出してしまう自分の不器用さを恨んでしまう。


「困ってしまうのですか? ふふふ」


「何を笑っているのです」


「・・失礼。あなたがとても可愛らしいと思って」


 アイーシェは口を開けて凝視してしまう。こんな甘い言葉をあのレオハルトが言うなんて。これは最近の出来事なのだが、以前までのレオハルトは夜しか一緒に過ごさず、過ごすと言っても夜の相手をするだけで、そこには会話や挨拶など無いものであり窮屈な思いをしていた。しかしこの頃は仕事が忙しいという中、わざわざ会いに来てくれ気さくな言葉をかけてくれるのだ。

 見つめる視線も柔らかく、以前よりも人間味を感じて胸が高まる。

 

 元々、美しい顔をしていたのだけれど持ち前の仏頂面と無口のせいで、その顔は怖いと感じられた。


「どうしたのですか? 呆けておられますよ」


「あ、いえ、何でも・・!」


 レオハルトはアイーシェのおでこに自らのおでこをつけて熱を計ったが熱が無いと分かると瞼にキスをして顔が離れて行った。


「な、何をなされるのですか!?」


「申し訳ありません、ついついあなたのお顔が美しいので愛でたくなったのです」


「戯言を!」


 口に手を当て朗らかに笑うレオハルトを侍女達は熱に侵されたような眼差しで見つめる。それを見て、胸がきゅっと縮まる思いに蓋をする。

 (なんて浅ましい!)

 もう恋などしないと、初めてレオハルトを受け入れた時にそう決意したのに崩れてしまう。それに他の誰かに嫉妬などという醜い感情なんて抱く自分がいるなんて。


「本当にアイーシェは美しい。この豊かな黄金の髪は私の心を揺らし、この涙に濡れた瞳は私を惑わせ、この真っ赤な唇は私を誘う」


「っつ!お止めください」


 やめて、私の心を乱さないで。この感情をそっとしておいて。そうしないと私は、もっと欲しいとあなたを願ってしまう、切望してしまう。

 

「何故?私にはあなたしか目に入らないというのに」


 嘘つき、だってそう言って他の側室を抱くのでしょう。私だけの物でないあなたの腕で。優しく甘い言葉を耳に囁いて。


「アイーシェ」


「・・・」


「アイーシェ」


 その言葉に嫌々ながらも顔を向けて恐ろしい程美しい顔を見る。女よりも綺麗な顔、そんな人に恋焦がれるのは何も私だけではない。

 私だけが特別なんて思ってはいけない。だって彼は王なのだから。


「すまない。私の行動があなたを不安にさせているのだろう。本当にすまない。けれど覚えていて、私はあなたしかいらない」


 手をとって、そこに愛しく唇を落とすレオハルトを間近で見て顔が赤くなる。本当に愛されていると勘違いしてしまう。


「なら、何故ここでキスして下さらないのですか?」


 嘘つき。

 夜は何も言葉を発することなく私を抱くくせに。どんなに優しい言葉を待っても夜は囁いてくれないのに、その代わり昼は無駄という程長く話す癖にその分私に触れてこない。いや、過剰なスキンシップは求められるのだが情欲に犯された瞳では決して見つめないのだ。その黒い瞳はただ、あなたが愛おしいとしか読み取れない。

 本当はそれで満足すべきだ。そう分かっているのに一度欲してしまった熱は抑えることができない。自分が醜く、浅ましいことなど重々承知している。けれども確かな愛が欲しい。


「キスが欲しいのですか?」


「夜はお聞きにならない癖に」


「・・はあ」


 溜息のような呆れた声を出された時には視界が歪んだ。

 やはり私を下賤だと思うのでしょう。女から接吻を欲するなんて、あってはならないことで恥ずかしいことなのだ。


「ああ、泣かないで、愛しい人。違うんだ、この溜息はそのある男に向けてというか・・」


「・・?」


「本当にいいのかい?」


 こくりと頷いて目をそっと閉じると目の前を影が覆う。


 そうすると、ふわりと頬に柔らかな感触がした。


「どうして・・!」


 唇を突き出して、むっとするとレオハルトの細い指が唇に触れた。


「可愛い人。君を今すぐにでも私の物にしたい。けれど本当に気味はそれを望んでいるかい?」


「望んで・・!」


「しー、君は今寂しいんだろう。偶に来れない日は私がどう過ごしているか不安になって、もしかしたら他の側室の部屋にいるかもしれない。それは王として当たり前の義務。けれど寂しい、そう思うかもしれない。けれどね、私は君を大切に優しく愛したい」


 侍女達に聞かれないように耳元で囁いてレオハルトの唇が時々触れて身体を揺らしてしまう。

 アイーシェは高鳴る鼓動を押さえながらもレオハルトの袖を掴んだ。


「アイーシェ、好きだよ。愛している」


 甘く言葉を発しながら頭を撫でてくれる手が好き。私の醜い心を知りながら許容してくれるあなたの心が愛おしい。優しげに緩むあなたの瞳が夜空のような宝石に見える。そして、愛を囁いてくれるあなたの声が何よりも私の宝物。

 好きよ、好き。あなたの全てが好きなの。だから、今だけは私の我儘を許して。我儘を言っている時間が、あなたを独占していると思えるのだから。


「だったら、少しだけ我儘を言っていいかしら?」


「ええ、もちろん。あなたの可愛い我儘くらい聞きますよ」


「本当?」


「ええ、私があなたに嘘をついたことなど無いでしょう」


「・・そうね」


 あなたは嘘は吐かない。けれど大事なことは隠しているでしょう。

 私は浅ましい女だから、あなたの大切を奪ってしまう。そうすれば私の不安が減るの。私が愛されていると感じるの。ごめんなさい。


「でしたら、あなたが寝室で世話を頼んでいる侍女を下さらない?」


「・・え」


「あら、その侍女は私よりも大切なのかしら?」


「いえ、そういうわけでは無いのですが・・」


 やはり歯切れが悪い。それはそうだ、だってその侍女こそが彼の本命なのだから。皆、噂しているのを知っている。

 国王レオハルトは寝室に見目麗しい侍女を寵愛している、と。彼はその女を大事にしていて人目に触れさせることは決してない。


「我儘を聞いて下さるのでしょう?」


「うーん、どうしようかな?レオハルトに言っても怒られるし、ていうか百合?美女は百合希望?」


「はい?」


「ああ、すまない。いいよ、彼女を君にあげる、というのは変だが貸すよ。彼女にも私の仕事を手伝って貰っているから偶にになってしまうが良いかい?」


「・・いいのですか?」


「勿論、君がそれで納得してくれるのなら」


「・・・」


 彼は知っているのだ、私の心を。この悪魔が住み着いた邪悪な嫉妬という悪魔を。それでも彼は私を許してくれるの?


「私は何度も君が一番と言っているのに。あの侍女はただの駒だよ。使い捨ての駒さ」


「そんな!?」


 本当に大切じゃないの?唯の噂なの?けれども今の言い方は私を安心させるというより何だか自分に言い聞かせるみたいで胸が痛い。

 視線も酷く凍ったようになり冷酷の王と呼ばれる所以を身を持って味わった。


「女性にそんなことを言ってはいけませんわ」


「私にとっての女性はあなただけだから、あなただけに優しくするよ」


 そう言ったレオハルトの表情はいつもの通りに柔らんだ微笑を浮かべている。

 ああ、知っているのよ、私。あなたは自分の大切なものには優しくして他の物は容赦なく切り捨てるという子供のような性格って。けれども最近のあなたは、それを少しずつ変えようとしているってことも知っている。誰の影響かしらね?

 私じゃないことは知ってるわ。でも、あなたを変えたのは、きっと女性。女の勘って恐ろしいけれど私には分かるわ。

 でも彼女は、あなたの特別だけど特別じゃないんでしょう?彼女に嫉妬するけれど、あなたの一番は私ですものね。そう信じているわ。


「レオハルト様」


「ん?」


 可愛らしく振りかえった彼の唇にそっと自分の物を押しつける。彼は私から初めての行為に目を見開いて黒い目をこれでもかとばかりに見開く。

 そんな表情を初めて見たので驚いて顔を離すと、さらに驚く。

 彼が頬をうっすらと赤く染めたのだ。


「あ、いや、どうしょう。ああ、嘘、ど」


「レオハルト様」


「す、すまない。今日はこれで」


 慌てて逃げていくように席を立つレオハルトにぽかんとしながらも彼の初めて動揺した姿に自分も顔を赤くする。


「私が彼を変えてる?」


 そうかもしれない?私も少なからず彼に影響を与えているんだと思って笑顔が自然と出てくる。今日はこれでいい、明日も少し彼の表情を変えられるように頑張ろう。

 ほら、私を元気付けるように空も澄み切っていて明るい。




部屋に帰ってからのコトハ・・

「きゃああああ!どうしよう、百合?百合よね?きゃあああ!」

そんなコトハに2対の目が向けられているがコトハは悶えている。

「ごめんね、レオ!事故なのおおおお!」

「・・?」

「ああ、もうどうしよう!」

顔を赤くして長椅子を叩くので埃が出てくる

「・・コトハ」

「あう、ごめんなさいい!もう寝ます」

そう言って寝室に向かったコトハを王と宰相は怪訝な顔で閉じられた扉を見た

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