閃光
うおおおん……。
暗闇を、ぱっと白い光が切り裂いた。はっ、と源二は立ち止まった。
二輪車だ!
数騎の二輪車が道を塞ぐように並んでいる。跨っているのは母衣武者たちだ。鎧の背中に旗指物を立て、二輪車の梶棒を握りしめている。
母衣武者たちもまた、傀儡師とおなじような眼鏡を兜の眉庇の下につけていた。
二輪車の前部にある照明装置が威嚇するように闇を照らし出していた。武者たちが梶棒をぐいっ、と回転させると、二輪車は震え、咆哮する。
二輪車、傀儡……両方とも機械の生き物どもである。
けたたましい音を立て、二輪車が向かってくる。跨る武者たちは手にした槍を水平に構え、源二を目がけて突進してきた。
源二は姫の衣装を脱ぎ捨てた。もはや目眩ましをする段階は過ぎた。さっと向きを変えると、屋敷の方向へ戻る。
屋敷の正門から、ずしり、ずしり……と足音を立てて傀儡が姿を現した。
源二は蹈鞴を踏んで立ち止まる。背後からは二輪車に乗った武者たちが迫ってきた。
傀儡に乗り込んだ傀儡師は、源二の姿を見て、勝ち誇った笑みを浮かべた。顔の半分を覆った眼鏡が不気味に光る。がばっと傀儡は両手をひろげ、通せんぼの格好になる。
源二は懐に手を入れると、玉を取り出し、地面に叩きつけた。
ぱあーんっ、と炸裂音がして、眩しい光が一瞬びかっと電光のごとく白く輝いた。源二が叩きつけたのは、目眩ましのための火薬玉だ。
わあっ、と傀儡師が悲鳴を上げ、顔から慌てて眼鏡を毟り取った。一瞬の光芒であったが、強烈な光輝が傀儡師が掛けている眼鏡を通じて増幅させたのだ。
今、傀儡師には何も見えない状態になっている。背後でも同じような悲鳴が上がっている。がちゃ、がちゃんと音を立て二輪車が倒れこみ、母衣武者たちが目を手で覆って、うずくまっていた。
傀儡はぎくしゃくとあっちによろけ、こっちに倒れこむような奇妙な動きを繰り返していた。傀儡師が操ることができなくなって、立ち往生しているのだ。
源二はその脇を駆け抜けた。
闇に紛れ、一散に走る。
時姫が待っている。




