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衣装

 源二は戦いの予感にわれ知らず微笑が浮かぶのを押さえ切れなかった。確かに姫を無事逃すため自分は囮になるつもりである。ただし、どう囮になるかは敵の出方次第というものだ!


 背中に担いだおいの底の蓋を、源二は手さぐりで開いた。手に数枚の十字手裏剣が触れる。

 源二の手首が素早く動き、十字手裏剣を次々と投げる。


 ぎゃあっ、という悲鳴が兵士たちの間から上がった。みな首の鎧で覆われていない部分を押さえ、ばたばたと倒れていく。


 さっと緊張が兵士たちに走る。源二は故意に足音を立て、その前を突っ切った。


 あっ、と兵士たちは源二の姿を見て声を発した。


「時姫だ!」

「逃げるぞ!」


 源二は時姫の衣服を持ち出して、それを頭から被っていたのだ。遠めには姫の姿に見えるであろうと期待したのだが、ものの見事に、図に当たってくれたようだ。


 篝火の明かりが届かない暗闇に、ひらひらと姫の衣装が見え隠れしている。兵士たちは釣られたように走り出した。

 目の前に塀が迫る。とん、と源二は跳躍した。


 たった一跳躍で源二は塀の上にひらりと飛び乗ると、素早く周囲を見渡した。

 屋敷の周りにいた数人の兵士たちが塀の上の源二を見上げ指さし「時姫」だと声を上げている。

 さっと地面に降り立つと、源二は姫の衣服を頭から被ったまま、走り出した。


 ともかく鴨川から離れる方向を目指す。本当の姫は、そこにおられるのだから。


 どたばたと、みっともない足音を立てて兵士たちは追いかける。源二の足取りはひらり、ひらりと飛ぶようで、まったく足音を立てない。

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