出口
蓋が閉まって、あたりは真っ暗になった。
手さぐりで縄梯子を降りていく時姫は、ただ機械的に手足を動かすことだけに専念する。
やがて、足先が底に着いた。ほっと溜息をつき、時姫は手をのばして、そっと井戸の内側を探る。
源二の言っていた抜け穴がある。
時姫が腰を屈め、四つん這いになってやっと通れるほどの高さである。頭を低くし、手を地面について、姫は這い進んだ。
空井戸とはいえ、湿気があるのか、妙な匂いが籠もっている。地面はじっとりと湿っていた。
やがて行く手がぼんやりと明るくなった。抜け穴の出口だ。
ぽかりと時姫の頭が穴の出口から突き出される。穴は斜面に開いていた。まわりは、一面の茂みである。背の高いススキの穂先がかすかな空気の動きにそよいでいるのが、月明かりに見てとれる。
ここで待つようにと源二は命じていた。
その言葉を守り、時姫は膝を折り、その場に座り込んだ。静かな月夜に、かすかに虫の音が聞こえている。
ここは、どの辺かしら?
時姫はぼんやりと周りを見わたした。
茂みの向こうに一筋、川面が見えている。どうやら鴨川の川原のようだ。
その川越しに、月夜に照らされ、御所の建物が遠く見えている。巨大な【大極殿】の大屋根があたりを圧するようにそびえ、その背後に一つの塔が天を突き刺すように高々と立っている。




