源二の死
ほう……、と甚助は微かに声を上げた。
なるほど、確かに美しい。
「甚助、そやつか?」
闇の中から仲間の声が響く。目の隅でちら、と数人の男たちがやってくるのを、甚助は認めていた。
「ほう、それが時子とかいうお姫様かい? こりゃ別嬪じゃねえか!」
どかどかと無遠慮に集まってきて、男たちは値踏みするような視線を時姫にあてた。時姫は、きっと男たちの目を見返した。
「無礼者! 下がりや!」
どっと男たちの間に笑い声が上がった。
どお……、と背後の山寺が焼け落ちる。
火の粉がぱっと撒き散らされ、いくつかが男たちの肌にくっついたのか、あちち……という声が上がった。
「おれに任せろ!」
一人が大身の槍を構え、突進した。
穂先を源二は薙ぎ払った。
ぐわん、と槍があさっての方向を向き、突きを入れた男はその勢いに足もとを掬われるようにして倒れこむ。
わっ、と前のめりになるそいつを、源二は真っ向から切り下げた。
がつ、といやな音がして、男はうめき声を上げて地面に腹ばいになった。
悶絶している。どこかの骨が折れたのだろう。
源二の驚異の手並みに、男たちの間に怯みが走った。が、それでも多数を恃み、取り囲んだ。
男たちの間に素早い目配せが交わされた。気を揃え、一斉に槍が繰り出される。
どすっ、どすっと鈍い音がして、無数の槍の穂先が源二の身体に食い込んだ!
「源二!」
時姫が悲鳴を上げた。
ぐぶっ、と源二の口元から血が溢れた。
くくくく……、とそれでも地面を踏みしめていたが、やがてどう──と倒れこむ。
「源二──!」
時姫の声が長々と後を引く。地面に倒れた源二に取りすがり、激しく泣いている。
甚助はふらりと近寄った。
きっと時姫が顔を上げ、甚助の顔を憎々しげに見上げる。
ふっと甚助は視線を外した。その視線が杉木立の闇に向かっている。
気になるのは、襲撃の前に聞こえた赤ん坊の泣き声であった。