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啄木鳥

 源二の額からは大粒の汗が噴き出していた。


 へらっ、と甚助は笑った。


「こう見えても、剣術は得意でね。今度はこちらから行くぜ!」

 無造作にずかずかと歩み寄り、腕を伸ばして突きを入れた。


 うっ、と源二は一歩後ろへ飛んだ。そこに甚助の第二の突きが殺到した! 辛うじて躱した源二だったが、甚助の突きは三度あった。一瞬にして甚助は突きを三回入れていたのだ。啄木鳥の異名の由来である。


 源二の目が大きく見開かれた。自分の鳩尾に、甚助の切っ先が食い込んでいる。

 むおっ、と源二は大きく喚くと、手にした刀を跳ね上げた。


 きいーんっ!


 歯の浮くような金属音がして、甚助の刀が真ん中から真っ二つに折れていた。甚助は刀の鎬で跳ね上げたのだ。


 くそっ、と甚助は毒づいた。


 源二の着物の胸辺りが、大きく切り開かれている。中から鎖帷子が覗いていた。確かに突きは入ったが、鎖帷子に阻まれ、致命傷ではなかった。

 折れた刀を投げ捨てると、甚助は一歩下がった。

 源二の刀を見つめる。源二の刀は、刀というよりは、鉄の棒である。敵の刀を折ることを目的として鍛えられている。


 そろそろと甚助は自分の着物の懐に手を入れた。用意の手裏剣が手に触れた。


 その時、甚助は源二の様子に気付いた。


 ふーっ、ふーっと肩で息をしている。


 致命傷ではなかったが、傷は深い。顔色は真っ青で、大量の汗が額から顎に伝い、ぽたぽたと垂れていた。

「歳だな、源二。諦めろ、お姫様はおれが京の都へ連れて行ってやるよ」

 うるさい、と源二はつぶやいた。刀を両手で捧げ持つように構える。切っ先が細かく震えている。


 時姫が源二の背中にすがりつくようにしている。目が大きく見開かれ、甚助をひた、と見つめていた。

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