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 闇の中から現れた甚助の姿に、源二は立ち止まった。背後の時姫を守って、立ちはだかる。

「甚助!」

 怒りをこめ、叫んだ。

「おぬし、何が狙いだ?」

「そのお姫さまだよ」


 ゆっくりと甚助は近づいてくる。わざと隙だらけのように見せかけているが、実はその目は油断無く動いている。両手はだらりと体の両側に垂らしていた。


 遠くから、わあわあと源二が撒き散らした銭を取り合うならず者どもの声が聞こえている。


 じりっ、じりっと、二人の距離が詰まった。


 すらり、と源二は腰の刀を抜き放った。

 肉厚の刃で、反りは少なく、直刀に近い。刃は幅広で、切れ味より、多少は打ち合っても折れない強さを求めた形だ。


 甚助も自分の刀を抜いた。こちらは三尺近い長さの業物で、反りが強い。細身で、軽く扱いやすいが、相手と切り結ぶような目的では作られていない。


 源二は刀の背を自分の左肩に押し当てるようにして構えた。甚助は源二に正面に向き合い、斜に構える。

 轟っ、と屋根の炎が熱風を巻き上げる。細かな火玉が、辺りに点々と転がった。


 むん! と無言の気合を込め、源二がおおきく跳躍した。肩に担ぎ上げた刃を真っ向から振り下ろす。


 さっと仰け反るような姿勢で、甚助は寸前で躱す。刀で受けるような馬鹿な真似は絶対しない。細身の刀は、源二の肉厚の刃を受け止めたら、一撃で砕かれてしまうからだ。

 さっと源二は横に薙ぎ払った。


 す、す、と甚助は軽やかに動いて紙一重に見切って避けていた。

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