火矢
ちゃり、ちゃりーん!
金属の涼しげな音色が男たちの耳に届いた瞬間、全員の動きが止まった。
「そうれ! 早いもの勝ちだぞ!」
もう一度、源二は手の中のなにかを撒き散らす。
「金だ!」
一人の男が喚いた。
「金だぞ!」
わあっ、と男たちは立ち上がった。
「馬鹿、やめろ!」という甚助の制止の声もあらばこそ、男たちは目の色を変え、源二が撒き散らした銭に殺到する。
足元に転がった一枚を摘んで、甚助は首を振った。銭は新鋳の永楽銭だ。この辺りでは、一枚で鐚銭数枚分の価値はある。
くそお……。やられた!
甚助は地面に放り出された火矢を掴むと、きりきりと引き絞る。
ひょお……、と火矢は空中を飛んで屋根に突き刺さる。
途端に、乾ききっていた藁屋根は、めらめらと燃え上がった。
が、源二は屋根にいなかった。とっくに、退散していたのである。
それを見てとった甚助は、慌てて走り出した。わざと手薄にしていた北側が心配になってきたのだ。
燃え上がる屋根が、辺りを明るく照らし出している。
裏手に回ると、がらっと音を立て引き戸が開かれた。中から源二が女の手を掴んで飛び出してくる。
間に合った!
甚助は薄く笑った。




