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返し矢

 しかし、ここは感心している場合でもない。甚助はそろりと立ち上がり、杉木立を楯に、じりじりと移動し始めた。

 源二の振る舞いに疑念が生じていた。


 あまりに派手すぎる。なにか、他の狙いがあるような……。


 ぐさりと突き刺さった敵の矢を、源二は掴むと弓に番えた。

 ぐっと引き絞り、放つ。

 上がる悲鳴。


「返し矢だ!」

「返し矢にやられた!」


 恐怖の声が上がる。


 古来、返し矢は、必ず命中する、恐るべき矢であると言われている。

 浮き足立つ連中の背後から甚助は叫んだ。


「火矢を放て!」


 甚助の声で、男たちは救われたように火矢の用意を始めた。

 屋根の源二が叫ぶ。

「甚助、やはり、お前か!」

 甚助を狙って弓を引き絞った。

 かつ! と、甚助の隠れている杉の幹に矢が突き刺さった。一瞬、甚助が頭を下げなかったら殺られていたところだ。


 へっ、と甚助はあざ笑った。


 もう源二の手に矢は尽きている。返し矢をしたのが、その証拠だ。

 だが、源二はまだ奥の手を持っていた。

 懐に手を入れる。


 なにをするつもりだ?


 と、源二は懐のなにかを手に一杯に掴み、ぱっと空中に投げ上げた。

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