産声
おぎゃあーっ!
力強い、産声が山寺を満たした。
ほかほかと湯気を立てる真っ赤な塊を、源二は取り上げた。
「姫っ! 男の子じゃ!」
両腕で赤子を抱え、源二は喜色を上げた。
紛れもない、人間の赤ん坊である。心配した頭の皿など、どこにも見当たらない、人間の子供であった。
源二は手早く臍の緒を始末する。
時姫は両腕を伸ばし、源二の腕から赤ん坊を受け取った。胸をはだけ、赤ん坊に乳を含ませる。こくん、こくんと音を立て、赤ん坊は母の乳を吸い込んでいる。
ほのぼのとした幸福感が、その場を支配した。
「名前を付けなくてはな……」
時姫の手を握った三郎太が、つぶやいた。
「三郎太殿の一字を貰い、時太郎というのは、どうでしょう?」
時姫の答に、三郎太は笑った。
「良い名だ……。時太郎、おれの子供だ!」
赤ん坊の顔を覗きこむ。
と、その目元を指差す。
「痣があるな……」
ああ、と時姫は、うなずいた。
「その痣は、信太一族の男には必ず現れる徴なのです。妾の父御にも有りました。すなわち、信太家の徴……。この子は紛れもなく、信太家の男児ですわ」
「三郎太、抱いてみよ」
源二の提案に三郎太は仰天した顔つきになった。
「おれが、か?」
「そうじゃ。おぬし、父親になったのであろう?」
恐々と三郎太は、時太郎と名づけられた赤ん坊を壊れ物を扱うように時姫から受け取る。源二は助言した。
「肩に担ぐのじゃ。そうして背中を叩いて、げっぷをさせてやれ……」
とんとんと三郎太は赤ん坊の背中を優しく叩く。げぷっ、と赤ん坊がげっぷをする。
ほっ、と三郎太の顔が綻んだ。