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無線行動電話

 源二は甚助の懐を指差した。


「今さっき出した小道具は、何じゃ?」

「ああ、これか」

 甚助は、さっきの印籠を取り出した。表面はつるりとして、真ん中から二つに割れるような蝶番があった。


無線行動電話ケータイと南蛮人は言うておったな。これで、遠くにいる相手と話すことができるのだ。さっぱり理屈は判らぬが、しごく便利な道具じゃ。さっきは、あの藤四郎様が殿が二輪車をお責めになるので、道を空けよと命じたのだ。あの二輪車は上総ノ介殿の一番のお気に入りで〝千載〟という名をお付けになっておる」


「南蛮人が、ここにも参っておるのか?」


 源二の質問に甚助は「いけねえ!」という表情になった。うっかり口を滑らせた、といった体だが、源二は信じなかった。甚助の言葉には、すべて裏がある。


「なあ、源二さん。おれの話に乗る気は、ないのかね? あんた程の腕前の持ち主が世間に埋もれるのは惜しい。そうじゃないか?」


 源二は立ち上がった。


「拙者に構わんでくれ! 一言、念を押しておく。良いか、もしこれ以上しつこく付き纏うつもりなら、こちらにも覚悟があるぞ!」

 本気だった。源二は殺気を込めて甚助を睨みつける。


 一瞬しげしげと真顔になる甚助だったが、すぐ笑い顔になった。


「怖や、怖や……源二殿の殺気は物凄い……」

 剽げた様子で甚助はつぶやいた。

 源二はくるりと背を向けた。物も言わず去っていく。


 しかし奴が諦めるとは思えなかった。源二は、甚助の執念深い視線が背中に貼り付いているのを感じていた。

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