仕事
源二は作事場を眺めた。
城の石垣を組むため、沢山の傀儡が働いている。これ程の数の傀儡が働いているのを、源二は初めて目にしていた。
縄張りを見て、源二は内心首をかしげた。
城の構造は熟知しているが、どうにも見慣れぬ形だった。城の前面にあたる斜面が大きく切り開かれ、なだらかな坂になっている。その先が湖になっていて、完成途上の城の姿が鏡のような湖面に映っている。
見とれている源二に甚助は話しかけた。
「大きい城じゃろう? 破槌城というのじゃ」
破槌……? と問い返す源二に甚助は指で字を書いて教えた。
「この村も殿が破槌と改めた。前は井ノ口とか言ったが、そう名を改めたのじゃ」
美味そうに珈琲を飲み干すと、甚助は上目遣いになって、そっと顔を近づけてきた。
「源二さん。あんた今、何をしている? 炭焼きの親爺だけかい?」
「当たり前じゃ。ほかに何があろうか」
くっく、と甚助は引きつったような笑い声を上げた。
「そんな与太話を、おれが信じると思ったのかね。ちょっとばかり、面白い噂を耳にしたんでね。京の信太屋敷から、娘が一人、出奔して、それっきり誰も行方は知らない……。面白いとは思わないか」
「思わんな。それが拙者に、いったい何の関係がある?」
「その時、ひどく腕の立つ従者が一緒に逃げ出した、と噂に聞いたんだがね。それが実は、あんたじゃないかと、睨んでいるんだ」
「知らん」と源二は首を振った。
「それより、お前こそ、何処で何をしておるのじゃ。まだ素破、乱破仕事に未練を残しておるのか?」
甚助は得意げな表情になった。
「おれか? おれは、こう見えても、この緒方上総ノ介配下の家臣に仕えておる。だからあんたに声を掛けたんだ。あんたと組めば、面白い仕事ができそうだ」
「断る!」と源二は言下に首を振った。




