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疑惑

 時姫は源二の手に持っている枝に目を止め、指さした。


「それは、なに?」


「ああ、これでございますか。五加皮うこぎの枝でござりますわい。これを火にくべ、湯に入れて煎じれば、茶になり申す。胃の働きが良くなり、通じも楽になりまする。山菜採りの合間に目にし、五加皮茶でも点てましょうかと参じました」


 まあ……と時姫は笑顔になった。


野点のだて、ですね。源二も、風流なところがあるのですね」

 時姫は寺に入り、さっそく茶の用意をする。用意を待つ源二は、縁側に腰を下ろした。


 のんびり景色を楽しむうち、ひょろりとした影を見つけ、微かな不安が胸に湧いた。影は、三郎太であった。

 背中に日差しを受け、半身が影になっている。手にはそこらで掘り返したのか、土のついたままの長薯を下げている。


 三郎太は、ちょくちょく訪ねるようになっていた。訪問するたび、木の実だとか、川魚だとかを手土産に持ってきてくれるので、それは有難かったが、源二は微かな疑惑を三郎太に抱いていた。

 無言で近づくと、長薯を持った手をぐいと突き出した。源二は顔を顰めた。


「まあ、三郎太!」


 背中で時姫の弾んだ声がする。振り向くと、姫は目を輝かせ、三郎太を見つめていた。

 縁側から庭に降り、草履を履くと、いそいそと三郎太に近づいた。三郎太の持っていた長薯に気付き、袂で受け取った。


 くるりと源二に振り向き、口を開いた。


「源二、三郎太が長薯を持ってきてくれました! 夕餉は、とろろにいたしましょう」

 源二は無言で頷いた。

 秋の日差しに時姫と三郎太が並んで立っている。その光景に、源二の胸のうちに、小さな氷に似た疑惑が育っていた。


 まさか、な……。


 源二は急いで淡い疑惑を打ち消した。

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