沈黙
源二は驚いた。
「おぬし、何者じゃ? ただの河童にしては、ちと物を知り過ぎておる」
「なに、おれも少々あちこちを流れ歩いているから、こんなことも耳に入るようになったんだ」
そう言えば……と、源二の胸にある疑問が湧き上がった。
「おぬし、なぜあんな所で倒れておった。河童があんなところで暮らしているなど、聞いた覚えがないわ」
「探していたのだ」
「何を?」
「河童だ。おれたちは、この近くの河童淵という所に住んでいる。だが、他の場所に住んでいる仲間のことは、何も知らぬ。おれたちは年々、数を減らしている。原因は色々考えられるが、同じところで仲間同士で暮らしていて、血が薄まったと、おれは考えた。そこで、他の場所に住んでいる河童を探しに旅に出たのだ」
「それで、見つかったのか。仲間は」
いや──と、三郎太は否定した。
「どこにも、他の河童はおらなんだ。おれは、それこそ、北から南まで探し歩いた。が、河童の噂は、欠片もなかった」
三郎太の声には沈痛な響きがあった。
源二は三郎太のある口調が気がかりになった。
「おぬし、時々ふっと妙な口振りになるのう。時折、京に来る、南蛮人のような喋り方になる」
はっ、と闇の中で三郎太の息を呑む気配があった。再び口を開いた三郎太は、用心深い口調になっていた。
「そんなに似ているか? その……南蛮人とやらに」
「ああ、こうして闇の中を走っていると、お前が河童だということを忘れ、南蛮人と話しているような気になるわい。おい、どうした? なぜ黙る」
三郎太は、それきり黙りこくっている。沈黙は硬く、手に触れそうであった。
源二も口を噤み、走ることに専念していた。




