表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/46

山中

 姫の身体を抱き上げているというのに、三郎太は飛ぶように闇を走っていく。

 微かにぺたぺたという足音が前方から聞こえ、それを頼りに、源二は後を追う。

 もとより源二とても、姫を抱き上げて走る程度はなんでもない。しかし、今の三郎太と同じ速度で走れるかどうか、若いころならともかく現在では自信がなかった。


 姫はずっと押し黙ったままだ。抱き上げられたとき、悲鳴すら上げなかった。


 しばらく無言の時が流れた。


「いつまで走るつもりじゃ? 第一、ここは、どこら辺なのじゃ?」

 とうとう沈黙に耐えかね、源二が口を開いた。

「夜明け前には、安全な所に着く。今、走っているのは、山の中だ」

 暗闇から三郎太の平静な声が響いている。姫を抱き上げ、さらに飛ぶように走っているというのに、その声に震えは微塵も感じとれなかった。


 山の中……。


 源二は空を見上げた。

 雲はない。一面の星空に、時折は梢が通りすぎ、ちらちらと見え隠れする。確かに、山の中を走っているようである。


「しかし、妙じゃな」

「何が?」

「村の連中のことだ。金が欲しいというのは判る。じゃが、旅の者を襲ってまで手にしたいと思うとは。わしは、この辺りを知っておるが、それほど人気じんきが悪い場所ではなかったように思う」

緒方上総おがたかずさのすけノ介という領主を知っておるか?」


 三郎太の言葉に、源二はちょっと首を捻った。


「上総ノ介? 聞いた覚えがある。この辺りを治めておる領主じゃな。じゃが、もう八十に近い歳ではなかったか?」

「その息子のほうだ。息子が家督を相続して、上総ノ介を襲名した。この息子がえらく働き者でな。ちまちまと、あちこちに出張っては、領地を稼いでおる。そのため、出来星の家臣が増えて、郎党を募るため流れ者が続々と集結した。以来、この辺りは無宿人、やくざなどの集まる村になったのさ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ