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行動

「噂? なんの噂じゃ?」

「綺麗な娘と、腕の立つ老人の二人連れ、という噂だよ。そのような剛の者、いったいどこから流れてきたのか、みな不審に思うだろうな。あんたら追われているのだろう? それなら、無用な噂の火種になる振る舞いは、避けるべきではないか」


 くくくく……と、源二は歯を食い縛っていた。悔しいが、三郎太の言葉は真を衝いている。どうにか気を落ち着かせ、源二は刀を鞘に戻した。


 三郎太は、じっと耳を傾けている。


「聞こえないか? 山狩りが始まったようだな」

 源二は伸び上がって耳を澄ませる

 暗闇に、微かに呼び交わす声が聞こえてくる。源二は声を聞き取るなり、焚火を踏みにじった。

 予想外の焦りに、汗がどっと噴き出してくる。


「源二……」


 時姫が声を震わせる。


 源二は焚火の始末に余念が無い。

 ようやく火が消えたのを確認して、源二は顔を上げた。火が消えたこの場所は、真の闇に包まれている。三郎太や時姫の姿も、黒々した塊にしか見えない。


「姫さま! 逃げまするぞ!」


 うん、とうなずいて時姫が立ち上がる気配。

 が、足音が乱れた。よろけたらしい。

 はっとなった源二だったが、時姫の腕を三郎太が先に支えていた。

 なにを……と言い掛けた源二だったが、次の三郎太の行動に言葉を失った。


「これでは走れんな。疲れ切っておる」


 いきなり三郎太は時姫を抱き上げた。

 はっ、と時姫の息を呑む気配。ついで激しい息遣いが聞こえた。姫も驚きで言葉が出ないのか。


「源二、走るぞ!」


 いつの間にか三郎太は、命令口調になっていた。

 一瞬、源二は刀を抜いて三郎太を一刀の下に斬り捨てようかと考えた。が、時姫が三郎太の腕にあることを思い出す。

 さっと三郎太は姫を抱えたまま走り出した。慌てて、後を追いかける。


 源二は、唇を噛みしめた。


 なんという後手に回るのか? これでは、この三郎太とか名乗る河童に、良いように鼻面を取って引き回されているだけではないか!

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