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時姫

 月明かりに浮かぶ卵形の顔。冷え冷えとするほど白い肌。切れ長の大きな瞳が、静かに源二を見つめている。


 小さめの唇と、細い顎のせいで年よりはかなり幼く見える顔立ちだが、その瞳は全体の印象を裏切っている。何ものも見透かすような瞳は、どこか年令を超越した叡智を宿すようで、源二は時姫の瞳に見つめられるたびなぜか落ち着きを失う自分を感じていた。


 しかし、今の時姫は、源二がいつも見慣れた姿ではなかった。


 粗末な小袖を身に着け、長い髪の毛は背中でぎゅっと絞って垂らしている。普段は内掛けを纏っているのに、まるで京の町を歩く身分の低い婢女はしためのようであった。

 時姫は源二の驚く顔を見て楽しむように笑顔を見せた。ちょっと小袖を引っぱると、小首をかしげる。


「どう? 似合いますか?」

「そ、そのお姿は──」

「かねて、このようなことがあると予感しておりましたので、この前、求めておきました。いつもの姿では、逃げ出すこともできませんでしょう? それに、この着物、とても動きやすくてわらわは好きですよ」


 源二は「敵わぬ」と首を振った。姫さまはなんでも承知いたしておるわい……。


 懐から女物の草鞋を取り出すと、時姫の足もとに膝まづいた。

「これをお召しになってくだされ」

 ありがとう、と礼を言って時姫は足を差し出した。源二は手早く時姫の足に草鞋を履かせると立ち上がる。

「それでは、出かけましょうず。抜け口は用意しておりますので」


 はい、と時姫は素直にうなずいた。

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