水
「生きておるようじゃ! 源二、どうすればよい?」
源二は舌打ちをした。
「おやめなされ! そのような妖怪に情けを掛けるのは、却って仇となるに決まっておりもうす! 見捨てることじゃ。忘れもうしたのでござるか? 我らは追われているということを」
時姫は源二を見て、凛然と言葉を押し出した。
「妾には、そのようなことはできませぬ。妖怪であろうが、人間であろうが、生きていることには変わりないはず! さ、教えてたもれ。この河童を救う手立てを」
しかたない、と源二は河童の頭の皿を指さした。
「それ、その頭の天辺に皿がござりましょう? その皿が乾いたため、動けなくなったのでござる」
「水を掛ければ生き返るのじゃな?」
言うなり、時姫は跪いた。すでに腰の水筒を手にしている。ちゃぽん、と水筒の中で水が動いた。
はっ、と河童の目が見開かれた。水の音に反応したのか?
時姫は水筒の栓を抜くと、河童の頭の皿に水を注ぎ入れた。
ぱかり、と閉じていた河童の口が開かれた。
次の瞬間、河童の手が動いて時姫の水筒を握りしめていた。時姫の手から水筒をもぎ取ると、大きく開けた口に中の水をだぼだぼと注ぎ入れる。
ごく、ごくと河童の喉仏が動いた。
飲み干すと、ふーっと溜息をつき、河童は時姫の顔を覗きこんだ。
さっ、と時姫は立ち上がった。顔からは血の気が引いていた。その様子を見て取り、やはり止めておけばいいのに、と源二は胸のうちでつぶやいていた。




