熱風
熱風が真正面から吹きつけ、埃を舞い上げる。
空気は乾ききっていた。
街道のまわりの畑の地面は罅割れ、あちこちにしぶとい生命力を持つ雑草が顔を出していたが、それらもすべて黄色く枯れ果て、より一層の荒廃を強調しているかのようだ。
ぎー、がちゃん……
ぎー、がちゃん……
軋み音を立て、一台の耕運機が乾ききった大地をゆっくりと動いていく。その後ろを、疲れ切った顔をした農夫が梶棒を持って歩いている。畑を耕しているのだ。
地面は無残に罅割れ、耕作行為そのものが無為としか思えない。それでも執念に突き動かされてでもいるのか、農夫は無心に畑の土を掘り返していた。
そのうち耕運機は咳き込むような音を立て、動かなくなった。農夫は諦め切った様子で、呆然と立ち尽くしている。
日照りであった。
「これは、酷い……」
蓑笠を押し上げ、源二はつぶやいた。
背後を歩いていた時姫は、源二が立ち止まったのに気付き、足を止める。源二と肩を並べ、周囲の様子に目を止めた。
時姫もまた、日差しを避けるための笠を被っている。手には源二が枝から折り取った杖を持っていた。
「噂では聞いていましたが、これほどとは思っても見ませんでした……」
衝撃を受けている様子で、目にうっすらと涙が浮かんでいる。
源二は首を振ると、再び歩き出す。時姫はその背中に声を掛けた。
「源二……。なぜこのような有様になったのであろうか? もしや天の怒りか?」
「そうではござりませぬ」と源二は、憂鬱さを隠せずに答えた
「あれをご聾じあれ」
肘を挙げ、遠くの山脈を指差した。
遠霞に、威狛の山々が連なりを見せている。