表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/46

夜襲

 かすかな物音に、源二は目を見開いた。がばりと寝床から跳ね上がるように起き上がると、全身を耳にして闇に気配を探る。


 取り囲まれている。


 起き上がったときには、枕元の太刀を掴んでいる。そろりと足音を忍ばせ、下男小屋のしとみ戸を押し上げた。

 松明の火明かりが源二の顔をあかあかと照らし出した。屋敷の正門あたりに、無数の明かりが揺れている。


 真っ黒ななめし皮のような顔。半白の髪は源二の年令を表していたが、がっしりと臼のような逞しい顎と、着物から覗く肌は、脂びかりするくらい若々しい。源二はぎょろりと目を見開き、歯をむき出して唸った。


 百……いや、もうちょっと多いか。この屋敷を取り囲むには、仰々しいほどの人数である。


 ゆっくりと後じさりすると、源二は手早く支度を始めた。太刀を帯にねじこみ、革の半袴を身につける。ちょっと考え、鎖帷子を身につける。すべてが終わると、土間に下りて草鞋の紐をぎゅっと締め上げた。


 かねて用意のおいを背負うと、音がしないよう注意して引き戸を開け、外へ出た。背中に担いだ笈にはまさかの時のために食料、金子などが詰められている。

 見上げると、下男小屋の屋根越しに月が出ていた。月夜の夜襲とは、敵はいくさというものを知らぬ……。いや、そんなことも気にせぬほど焦っているのか。


 足早に中庭を突っ切り、母屋へ向かった。


 屋敷内はこの夜襲を知らぬように静まりかえっている。もっとも、屋敷に住まうのは源二と、主人である時姫、それと使用人夫婦くらいのものだ。

 夫婦は源二と同じように屋敷内の下男部屋に住んでいる。おそらく、この異変にも気付かず、高鼾をかいて眠り込んでいるに違いない。


 源二は母屋の濡れ縁に膝まづくと、そっと声を掛ける。


「姫さま……時姫さま……。お目覚めでございましょうか?」

 源二か……と女の声がして、からりと雨戸が開かれた。はっ、と源二は頭を下げる。

「夜襲でございます。すでに屋敷は東西南北、すべて敵の手により取り囲まれております。すぐに脱出せねば、姫さまが虜になるのは必定──」


 そこまで言上して源二は顔を上げた。


 あっ、と思わず声を上げてしまう。そこに、源二の主人である時姫が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ