第八章 魔王と魔王の妃
長い夢を見てた。
夢の中で私は白い空間に立ってた。周りには何もない。ただ果てしない白だけ。
で、ルシファーが見えた。
彼は私に背を向けて、遠くに立ってる。
呼びたいのに声が出ない。
歩きたいのに足が鉛みたいに重い。
彼はただそこに立ったまま動かない。だんだん遠くなっていく。
最後に彼は消えた。
白い空間が崩れ始める。
夢から飛び起きた。
目を開けた瞬間、飛び込んできたのは見たことのない天井。
私の部屋じゃない。
ここはどこ?
起き上がろうとした。でも体中が痛い。まるで何十匹もの竜に踏まれたみたい。
「動くな。」
横から声がした。
振り向く。ルシファーがそこにいた。
彼はベッドの脇の椅子に座っている。顔色はまだ青白い。肩には厚い包帯が巻かれてる。でも目は開いてる。私を見てる。
「起きたか。」
その声はかすれてる。まるで長い間誰とも話してなかったみたい。
「私……どれくらい寝てた?」
「三日だ。」
三日!?
またベッドに倒れ込む。
「戦争は?一条煌は?魔族たちは?」
「終わった。」彼が言う。「とりあえず、な。」
「とりあえずって、どういう意味?」
「一条煌は逃げた。六人の勇者も一緒に。でも奴らは戻ってくる。」
「じゃあ、今、私たちは……」
「魔界だ。俺の城だ。俺の部屋だ。」
俺の部屋?
やっと気づいた。このベッド、私のよりずっと大きい。ずっと柔らかい。それに見覚えのある匂いがする。
彼の匂いだ。
目が合った瞬間、私は布団を引き上げた。
「な、なんで私ここに」
「倒れたから」
「そうじゃなくて、なんであんたの部屋の、あんたのベッドに」
「俺のベッドが一番でかいから」
当然のように言う彼の横顔を、布団の隙間から見上げる。
つまり、この三日間——
「ずっとここにいたのか?」
「いた。」
布団を頭まで被った。
彼は私を見る。口元がかすかに上がる。
「顔、赤いぞ。」
「赤くない!」
「赤い。」
「赤くないって言ってる!」
「自分で触ってみろ。」
人の真似しやがって!
怒りで殴りたくなった。でも動こうとすると体中が痛む。
「動くな。」彼が私を押さえる。「力を使い果たしすぎたんだ。休まなきゃ治らない。」
隣の茶碗を手に取り、私に差し出す。
「飲め。」
その茶碗の中身は黒い。変な臭いがする。上には何かの葉っぱが何枚か浮いてる。
「これ、何?」
「薬だ。」
「何の薬?」
「滋養の薬だ。」
「どんな滋養の薬だ?」
「お前を回復させる薬だ。」
「滋養の薬だってのはわかった。でも、具体的に何が」
「ベルゼブブが煮込んだんだ。百種類の薬草を使って、三日三晩煮込んだ。」
茶碗を見る。
百種類の薬草。
三日三晩。
飲まなきゃベルゼブブに申し訳ない。
鼻をつまんで一気に飲み干した。
その味——
なんて言うか。
百種類の違う薬草を混ぜて、そこに地獄のトウガラシをちょっと加えて、さらに幽霊魚の胆汁で割った、そんな味。
吐きそうになった。
「飲み込め。」
ルシファーの声が聞こえる。かすかな笑い声が混じってる。
必死に飲み込む。で、ぜいぜい息をする。
「まずい……」
「まずい方が効くんだ。」彼が言う。「まずい薬ほど効くって言うだろ。」
「あんた、飲んだことあるの?」
「ない。」
「じゃあ、なんでわかるんだ?」
「想像だ。」
殴りたい。
本当に殴りたい。
その時、ドアが開いた。
「陛下!妃殿下がお目覚めに——」
ベルゼブブが飛び込んでくる。私が起きてるのを見て固まった。
で、振り返って走り出した。
「妃殿下がお目覚めだ!妃殿下がお目覚めだ!」
彼の声が廊下に響き渡る。
続いて外が騒がしくなる。
「目覚めた?本当に目覚めたの?」
「よかったよかった!」
「早く見に行こう!」
足音がだんだん近づいてくる。
で——
ドアが押し開けられた。
大勢の魔族がなだれ込んできた。
アスモデウス、ベルフェゴール、サマエル、それに見たことのない何十人もの魔族たちが、部屋の中をぎっしりと埋め尽くす。
「妃殿下!ついにお目覚めになりましたね!」
「びっくりしたんですよ!あんたが気を失った時、私たちもう」
「妃殿下、すごかったですよ!あの日、変身した姿、めっちゃかっこよかった!」
「たった一人で七耀聖杯を相手に!一条煌をぶちのめすところだったんだぞ!」
「妃殿下、万歳!」
頭が痛くなるほど騒がしい。
「ちょっと、ちょっと待って——」
何か言おうとしたその時、アスモデウスがもう抱きついてきた。
「ううう、無事でよかった!あの日、あんたが倒れた時、私たちどれだけ心配したかわかる?体中血だらけで、竜の力があちこち暴走してて、陛下でさえも——」
「アスモデウス。」
ルシファーの声が聞こえた。ちょっとした警告が込められてる。
アスモデウスはすぐに私を離した。隅っこに立つ。
でも彼女の目はまだキラキラ光ってる。
「妃殿下、あんたはご存知ないでしょうけど、あんたが倒れた後、魔界中で噂が広まったんですよ。」
「どんな噂が?」
「『妃殿下、魔王のために怒髪天を衝き、世界を滅ぼしかけた!』って。」
「何、その妃殿下って?私、違——」
「あら、謙遜しなくても。」ベルゼブブが割り込んでくる。「あんたは陛下のために魔王の力を覚醒させて、たった一人で七耀聖杯を撃退したんだ。これが妃じゃなくて、何なんだ?」
「それは——」
「しかも、あんたは陛下の腕の中で気を失ったんだ!私たちみんな見たぞ!」
「それは——」
「それに、それに、あんた、陛下の額にキスしたんだろ!それもみんな見た!」
「それは——」
「ああもう、妃殿下、もう言い訳しなくてもいいですって。」アスモデウスがウインクする。「わかってますから。」
何がわかってるんだ?
何がわかってるって言うんだ?
ルシファーの方に助けを求める目を向ける。
でも彼はただ椅子に寄りかかって、口元にかすかな笑みを浮かべてる。まるで面白い舞台を見てるみたいな表情。
このバカ!




