戦後
ルシファーは死ななかった。
でも傷は重かった。
闇の勇者の呪いは彼の体の半分以上を蝕んでた。回復には長い時間がかかるらしい。ベルゼブブの話だと、少なくとも一ヶ月は戦えない。二ヶ月は全力で戦えない、って。
ベッドの上のルシファーを見る。
彼は目を閉じてる。まるで眠ってるみたい。
でも眠ってないのはわかる。だって耳が赤いから。
さっき私が抱きついた時から、ずっと赤いまま。
「あの……」
口を開く。
「死なないでくれてありがとう。」
彼の耳がもっと赤くなる。
「礼には及ばない。」
「もうあんなことしないでよ。」
「何を?」
「私を守るために、あんなに傷つくのやめてよ。」
目を開ける。私を見る。
「じゃあ、俺に守らせるなよ。」
「私……」
「お前は弱いんだ。俺が守らなきゃ、誰が守るんだ?」
「今はすごく強くなったよ!」
「うん、一条煌を追い払えるくらいにはな。」彼の口元がかすかに上がる。「でも、まだ足りない。」
「足りない?」
「うん。あいつはまた戻ってくる。次はもっと強い力で。」
黙る。
彼の言う通りだ。
一条煌は逃げた。でも死んでない。また戻ってくる。
「だから……」
手を伸ばす。私の手を握る。
「強くなろう。一緒に。」
彼の手を見る。そして彼の顔を見る。
その青白い顔にまだ血色は戻ってない。でもその目はしっかりしてる。
「うん。」
うなずく。
「一緒に。」
彼は笑った。
その笑顔は優しすぎて、言葉にできないくらい。
彼を見る。急にあることを思い出した。
「そうだ、さっきあんた言ったよね?」
「何を?」
「『お前のバカだ』って。」
彼の表情が固まった。
「言ってない。」
「言った。」
「言ってない。」
「言った!」
「言ってない!」
「陛下、耳また赤いよ。」
顔をそらす。私を見ない。
笑った。
この魔王、なんて可愛いんだ?
ベルゼブブが飛び込んでくる。私たちの様子を見て固まった。
「あ……お邪魔でした?」
「言うまでもないだろ。」ルシファーの口調は氷のように冷たい。
「す、すみません!でも、本当に大変なことで!」
「言え。」
「一条煌が動きました!」
心臓がぎゅっとなった。
「どんな動き?」
「宣言したんです。一ヶ月後、第二回目の聖戦を行うって。今度は『本当の聖王の力』を携えて来るって。」
部屋の中が静まり返った。
本当の聖王の力。
千年前、封印されたあの存在。
ルシファーを見る。彼も私を見る。
「一ヶ月か。」彼が言う。
「うん。」
「足りるか?」
「足りる。」
彼の手を握る。
「今度は一緒に。」
彼は笑った。
「いいだろう。」
窓の外では、魔界の空が癒えつつある。
三つの月が柔らかな光を放っている。
戦争はまだ終わってない。
でも、いい。
だってもう、私一人じゃないから。




