第七章 聖戦・終焉の幕開け
アイザックの伝言は、棘のように心に刺さったままだった。
一人で行く?行かない?
三日間、迷った。
この三日間、毎晩同じ夢を見た。あの私と同じ顔の娘が、白い空間に立って、同じ言葉を私に言う。
「覚えておいて。あんたは一人じゃない。」
三日目の夜、ついに我慢できなくなった。リリィからもらったあの葉っぱを取り出す。
葉っぱの文字はまだそこにある。「すべてを受け止める覚悟ができたら、私のところに来なさい。」
深く息を吸う。死霊の力を少し流し込む。
葉っぱの光が強くなった。
中から声が聞こえてくる。
「ついに訊く気になった?」リリィの声だ。ちょっとだるそうな笑い声が混じってる。
「あの夢……」口を開く。「あれは本当なの?」
「本当だよ。」リリィが言う。「千年前の真実は、あんたが見た通りだ。」
「じゃあ、私はどうすればいい?」
「待つのよ。」彼女が言う。「適切な時が来るのを。あんたがすべてを受け止められるようになるのを。そして……」
少し間を置く。
「戦争が始まるのを。」
「戦争?」
「うん。」彼女の声が真剣になる。「一条煌はあんたにそんなに時間をくれないよ。すぐにでも来るだろうね。」
葉っぱの光が消えた。
葉っぱを握ったまま、窓辺に立つ。紫色の夜空を見る。
戦争。
やっぱり、三日後——
選ぶ必要はなくなった。
だって、戦争が始まったから。
その日の明け方。激しい揺れで目が覚めた。城全体が揺れてる。窓の外から耳をつんざくような轟音が聞こえる。
部屋を飛び出す。廊下は大混乱だ。魔族たちが走り回ってる。叫ぶ者、悲鳴をあげる者、武器を召喚する者、入り乱れてる。
「何があった!?」
「七耀聖杯だ!」ベルゼブブが角を曲がって飛び出してくる。顔面真っ青だ。「あいつら、攻めてきた!」
心臓がどんと沈んだ。
「ルシファーは?」
「陛下はもう城壁にいらっしゃる!奴ら、直接魔界の結界を破って、正面から突っ込んできた!」
城壁に向かう。
道中、戦争の惨状を目の当たりにした。
空が大きく裂けてる。金色の聖光がその裂け目からあふれ出て、魔界の大地に降り注いでる。聖光が当たったところは、魔界の植物が枯れ、建物が崩れ、弱い魔族はそのまま灰になる。
五つの影が空の裂け目の前に浮かんでる。それぞれ違う色の光を身にまとってる。
水の勇者——青い水が彼女の周りをぐるぐる回ってる。その表情は清らかで、まるで俗世の汚れを知らない神像みたい。
風の勇者——翠色の旋風が彼女の体を支えてる。長弓を引き絞って、矢じりは城の方向を狙ってる。
土の勇者——あのマントに包まれた影。両手を虚空に当ててる。大地が震えてる。
光の勇者——金色の光が彼女の全身から放たれてる。口元にはかすかな笑み。まるで面白い舞台を見てるみたい。
闇の勇者——あのぬいぐるみを抱いたロリ。珍しそうにあちこち見回してる。時々手を振ると、闇が指先からあふれ出て、すべてを飲み込む。
彼女たちの中で、本来火の勇者がいるはずのあの女公爵は、今こっち側にいる。
残ったのは五人の勇者。
五つの極致の力。
で、この五人のさらに上に、もう一人いる。
一条煌だ。
彼は聖光の中心に立ってる。背中には真っ白な光の翼を広げてる。その翼は巨大で、空の半分を覆い隠してる。彼の目はもう普通の人間の目じゃない。純粋な、何の感情も宿さない金色の目だ。
私を見てる。
こんなに遠くからでも、彼の視線が感じられる。
優しくて、悲しくて、そして残酷な視線。
「すみれ。」
彼の声が魔界中に響く。
「迎えに来たよ。」
「総員、迎撃!」
ルシファーの声が城壁に響く。
七大罪の幹部たちが城の各所から飛び出して、空の五人の勇者に向かっていく。
サマエルは闇の勇者と相対する。彼は相変わらず無表情だ。でも繰り出すのは必殺の一撃ばかり。黒い憤怒の炎と白い炎がぶつかり合って、空中に火花を散らす。
アスモデウスは水の勇者と相対する。彼女は妖艶に笑う。でも目は冷たい。色欲の力がピンク色の霧になって、相手の精神を蝕もうとする。でも、水の勇者の清らかな気質はこういう精神攻撃に強い。
ベルゼブブは風の勇者と相対する。彼のまん丸い体が空中で器用に動き回る。矢をかわしながら、いろんな変な食べ物を投げつける——その食べ物は空中で爆発して、変な匂いを放つ。風の勇者は眉をひそめて、息を止めるのに集中しなきゃいけない。
ベルフェゴールは土の勇者と相対する。二人とも動かない。でも周りの空間が歪んでる。一人は怠惰の力ですべての攻撃を無効化する。一人は大地の力ですべての防御を固める。これは意志の戦いだ。先に動いた方が負ける。
クラウディアは光の勇者と相対する。この二人が一番すごい。噂で聞いたことがある。二人とも、自分が六勇者で一番強いって言ってるらしい。今、二人は防御を完全に捨てて、ほとんど持ってるすべての必殺技を使って戦ってる。まったく容赦なく、命を削り合ってる。
五対五。
戦場は五つに分かれた。それぞれの場所で激しい戦いが繰り広げられてる。
で、残ったのは私とルシファー。
そして一条煌。
彼は空からゆっくりと降りてくる。私とルシファーの前に立つ。
距離、二十メートルもない。
彼は相変わらずあの哀れみ深い表情を浮かべてる。金色の目に私の姿が映ってる。
「すみれ、久しぶり。」
「久しぶりじゃない。」私が言う。「まだ一ヶ月ちょっとだよ。」
彼は笑った。
その笑顔は、あの日屋上で私に告白した時とまったく同じだった。
「変わったな。」
「当たり前だ。」
「強くなった。」彼は続ける。「前より、ずっときれいにもなった。」
私が答える前に、ルシファーが私の前に立ちはだかった。
「もう十分か?」
一条煌は彼を見る。笑顔は変わらない。
「ルシファー陛下、お名前はかねがね伺っております。傲慢の君主、魔界最強の存在。」
「知ってるなら話は早い。」ルシファーの口調は氷のように冷たい。「知ってるならわかってるだろう——今日、お前は帰れない。」
「そうかな?」
一条煌の笑顔がもっと深くなる。
「なら、試してみようか。」
戦いが始まった。
その瞬間、世界が消えた気がした。
残ったのは三つの影だけ。砕けた大地の上で激しくぶつかり合う。
ルシファーと一条煌。
私が援護する。
援護って言っても、ほとんど手が出せない。
彼らの戦いの次元が違いすぎる。ルシファーの黒い魔力。一条煌の白い聖光。ぶつかるたびに周りの空間が歪む。私は端っこをうろちょろしながら、たまに死霊の力で邪魔をするのが精一杯。ほとんどは余波を避けるので手一杯だ。
「すみれ、下がれ!」
ルシファーの声が聞こえる。
反射的に数歩下がる。次の瞬間、さっきまで私が立ってた場所に聖光が落ちて、大きな穴を開けた。
一条煌の攻撃は優しそうに見えて、実は致命傷だ。
「何を逃げるんだ?」彼は私を見る。その口調にはちょっとした責めるようなニュアンスが混じってる。「君を傷つけたりはしないよ。」
「誰が信じるか!」
骨竜を召喚する。横から彼に飛びかからせる。
彼は軽く手を振った。骨竜は粉々に砕け散る。
「本当に傷つけないよ。」彼は言う。一方でルシファーの攻撃を難なく受け流してる。「君を浄化するんだ。怪物の殻から解放するんだ。それは傷つけることじゃない。救いだ。」
「ふざけんな!」
また数十体の骸骨を召喚する。四方八方から襲いかからせる。
また手を振る。全部灰になった。
「君の力は私の前では無意味だ。」彼は言う。その口調はまるで慰めるみたいに優しい。「聖光はすべての闇の天敵だ。君は死霊術士だ。体中死の気配で満ちてる。私に克たれるのは当然だ。」
彼の言う通りだ。
私の攻撃は彼の前ではまるで紙みたいにもろい。聖光が触れた瞬間、焼けるような激痛が体中に走る。
でも退けない。
だって、ルシファーが戦ってるから。
彼の黒い魔力と白い聖光が交錯する。ぶつかるたびに天地が揺れる。でもわかる。彼は戦いながら、私を気にしてる。私を守ろうとしてる。私の位置を確認してる。一条煌の攻撃が私に当たらないように気を遣ってる。
で、一条煌はその隙を逃さなかった。
「闇。」
彼が優しく言った。
虚無から黒い影が現れた。ルシファーの後ろに立ってる。
闇の勇者だ。
あのぬいぐるみを抱いたロリが、いつの間にか幹部たちの相手を振り切って、ここに現れてた。
ぬいぐるみの目が急に光った。二筋の黒い光が放たれる。
ルシファーが異変に気づいた。避けようとした。でも一条煌の聖光がちょうどその時襲いかかって、退路を塞いだ。
二つの攻撃が同時に命中した。
黒い光が彼の背中を貫いた。
彼は前に倒れ込んだ。聖光もその時、彼の胸を撃った。
「ルシファー——!」
私の声が喉の奥で詰まった。
彼は倒れた。
銀色の長い髪が黒い大地に散らばる。体の下から暗い赤い血がにじみ出てる。
ぬいぐるみがまた口を開けた。
その口は大きく開いて、大人一人丸飲みにできるくらい。黒い霧がぬいぐるみの口からあふれ出て、まっすぐルシファーの背中に襲いかかる。
「ルシファー!」
駆け寄る。でも間に合わない。
ぬいぐるみの口がルシファーの肩を噛んだ。
その瞬間、ルシファーの体が硬直した。
黒い霧が彼の肩から広がり始める。急速に全身に広がる。彼の顔が一瞬で真っ青になる。口の端から黒い血があふれ出る。
「これは……」
「闇の勇者の『呪いの喰らい』だ。」一条煌が冷静に説明する。「噛まれたところは呪いに蝕まれ続ける。強ければ強いほど蝕まれるのは速い。強ければ強いほど呪いは喜ぶからな。」
少し間を置く。
「ルシファー陛下、あなたは強すぎた。だから、すぐに死ぬ。」
「黙れ!」
狂ったように闇の勇者に向かって突っ込む。
でも彼女はもう消えてた。
残されたのはルシファーだけ。片膝をついて、肩を押さえてる。
駆け寄る。彼を支える。
「ルシファー!ルシファー!」
彼の手が私の手に重なる。強く握る。
「俺は……いい……から……」
その声はかすれて、ほとんど聞こえない。
「逃げろ……早く……」
「嫌だ!」
「聞け……」顔を上げる。私を見る。
彼の口元がわずかに動いた。何かを言おうとしている。
でも声が出る前に、彼の手が私の頬に触れた。冷たい。ひどく冷たい。
「……逃げろ」
やっと聞こえた声はかすれていて、いつもの傲慢さはどこにもなかった。
私は首を振る。
彼は笑った。そんな時に笑ったんだ。
笑って、目を閉じた。
手が私の頬から落ちた。
「俺が死なないうちに、足輪はまだお前の気配を隠してくれる……奴らの見つからない場所に逃げて……生き延びろ……」
彼の手が滑り落ちた。
目が閉じられた。
「ルシファー」
私の声が空しく響く。
でも彼は答えない。




