お菓子を盗む精霊
お菓子を盗む精霊
それからの数日、ずっとアイザックの言ったことを考えてた。
一条煌は入れ物。生贄は聖王の力を目覚めさせるため。彼は私を愛してるから、私を選んだ。
どの言葉も刃みたいに心の中で切り刻む。
でも、それをゆっくり噛みしめてる暇はなかった。
だって、リリィが来たから。
その日の午後。部屋で死霊の力を制御する練習をしてた——竜の力で小石を浮かせて落として、また浮かせて落として、って退屈だけど必要な練習——突然、部屋の中でかさかさ音がした。
振り向く。一人の人影が隅っこにしゃがんでる。背中を向けて。何かを食べてる——
私の非常食?
「リリィ!?」
彼女は振り返る。口の中はいっぱい。頬っぺたがハムスターみたいに膨らんでる。
「ん?」
「何やってるの!?」
「んーんーんー。」口の中のものを指さす。「飲み込んでから話す」って意味らしい。
彼女が口の中のものを飲み込むのを見る。で、無邪気な笑顔を浮かべる。
「あんたの非常食、美味しいね。」
「それ、ベルゼブブからもらった限定版の地獄ポテチだよ!」
「知ってる。だから食べたんだよね。」
堂々と言い放つ。で、また次の袋に手を伸ばす。
飛びつく。ポテチを奪い返す。
「食べちゃダメ!」
「けち。」口をとがらせる。「ちょっと食べただけじゃん。」
「ちょっと?床を見てよ!」
床には空の袋が十几个散らばってる。全部、彼女の食べ残しだ。
「いつ入ってきたの?」
「さっきね。」ウインクする。「あんたが集中しすぎてて、気づかなかっただけ。」
「どうやって入ってきたの?」
「歩いて入ってきたのよ。ドア、鍵かかってなかったし。」
鍵、かけるの忘れてた。
「あのポテチ、私の非常食なんだよ!ベルゼブブが特別に作ってくれたんだ!弁償して!」
「弁償?」リリィは首をかしげる。考え込む。「いいよ、弁償する。」
懐から一枚の葉っぱを取り出す——前にもらったのと同じ、碧く光る葉っぱ。
「ほら、弁償。」
「これ、葉っぱだよ。ポテチじゃないよ。」
「これは精霊の森の通行証だよ。ポテチよりずっと価値があるんだから。」
「通行証なんていらない。ポテチが欲しい!」
「じゃあ、しょうがないなあ。」肩をすくめる。「食べちゃったもんは仕方ないでしょ。吐き出せって言うの?」
「あんた……」
怒りで言葉が出ない。
私の怒った顔を見て、彼女はもっと楽しそうに笑う。
「はいはい、怒らないで。ベルゼブブにお願いして、またもらってあげるから。」
立ち上がる。スカートをはたく。
「でも、その前に……」
急に、ドアの方に走り出す。
「あんたが追いつけたら、ね!」
城の廊下で追いかけっこが始まった。
リリィは前に走る。軽やかで、まるで蝶みたい。廊下を右に左に曲がって、時々振り返って私に変な顔をする。
後ろを追う。歯ぎしりするほど悔しい。
「止まれ!」
「止まらない!」
「私のポテチ返せ!」
「食べちゃったのに、どうやって返すの?」
「じゃあ弁償しろ!」
「葉っぱやったのに、要らないって言ったじゃん!」
「ポテチが欲しいんだよ!」
「なら、追いつきな!」
何本も何本も廊下を抜ける。無数の魔族を驚かせる。
「何があった?」
「妃殿下があの大精霊を追いかけてる!」
「どうしたんだ?」
「ポテチが原因らしいよ?」
「ポテチ?」
魔族たちが顔を出して、野次馬根性丸出し。中にはお菓子を取り出して、食べながら見てる奴もいる。
「頑張れ!妃殿下!」
「追え!追え!」
「あ、曲がった曲がった!」
構ってられない。追い続ける。
リリィはどんどん速くなる。私もどんどん速くなる。
最後に、彼女は行ったことのない廊下に飛び込んだ。
「待て!」
私も飛び込んだ。
で、彼女は一つのドアを開けた。
私も続いて飛び込んだ。
で——
私たちは風呂場に突っ込んだ。
熱い湯気が立ち込めてる。
風呂桶には一人の男がいた。
銀色の長い髪が濡れて、背中に張り付いてる。裸の肩が水面から出てる。血のように赤い目が、入り口を見てる——
私とリリィを見てる。
ルシファーだ。
風呂に入ってる。
時間が止まったみたいだった。
私とリリィは風呂場の入り口に立ちすくむ。ルシファーは風呂桶に座る。三人とも呆然としてる。
で、リリィが笑った。
「あらあら、お邪魔しました。」手を振る。「ごゆっくり。私はこれで。」
そう言って、するっと消えた。
残されたのは私とルシファーだけ。目と目が合う。
「あの……」私の声は自分のものじゃないくらいかすれてる。「私も……これで……」
「待て。」
その声が聞こえた。危険な感じがする。
その場に固まる。
「こっち向け。」
ゆっくりと振り返る。
彼はまだ風呂桶に座ってる。湯気で表情はよく見えない。でも、その血のように赤い目が私を見てるのはわかる。
「リリィを追いかけて、俺の風呂場に来たのか?」
「ち、違う!あの人が入ってきて……」
「で、お前も入ってきたのか?」
「わ、私、気づかなくて……」
「ここが風呂場だって気づかなかったのか?」
言葉が出ない。
で、急に、彼は笑った。
その笑顔が背筋を凍らせた。
「待て!」
追いかけた。
「せっかくだし……」
立ち上がる。
水しぶきが飛び散る。
悲鳴をあげる。目を覆う。振り返って走り出した。
後ろから笑い声が聞こえる。
「逃げるのか?さっき見たばかりじゃないか?」
「見てない!何も見てない!」
「そうか?じゃあ、なんで目を覆ってるんだ?」
「うるさい——!」
風呂場を飛び出して、廊下を走って、自分の部屋に飛び込む。バタンとドアを閉める。背中をドアにつけて、ぜいぜい息をする。
顔が焼けるように熱い。
あのバカ!
絶対にわざとだ!
ドアの外から騒がしい声が聞こえる。
「さっき何があったんだ?」
「妃殿下が陛下の風呂場から飛び出してきたぞ!」
「しかも顔がトマトみたいに真っ赤だ!」
「まさか……」
「ふふん!ついに妃殿下が陛下に手を出したか!」
「すごい!私たち、ついに二世王子様ができるのか?」
「早くお祝いの準備をしろ!」
これらの噂を聞きながら、穴があったら入りたい気分だった。
何が手を出しただ!何が二世王子様だ!何もなかった!
でも、わかってる。言い訳しても無駄だって。
今日から、魔界での私の評判は完全に終わった。




