クラウディア・視点
同じ頃、人間界、アイゼンベルク大公国。
クラウディアは城の窓辺に立ってた。窓の外の夜景を見てる。
彼女は私服を着てる。鎧も剣もない。体の傷はもう手当てが終わってる。でも、心の傷はまだ血を流してるみたいだった。
「なぜ、助けた?」
彼女はつぶやく。
あの不死者。あの、彼女が殺すべき敵。その敵が、自分の体で、彼女のために矢を防いだ。
あの矢は、彼女自身の部下が射ったものだ。
一日中考えた。でも、やっぱりわからない。
「公爵様。」
後ろから声がした。
彼女は振り返らない。
「言え。」
「聖光教会から使者が来ております。今回の戦役の報告を求めている、とのことです。」
「待たせておけ。」
「しかし……」
「待たせておけ、と、言った。」
後ろの人物は、少し間を置いて退がった。
彼女はまた窓の外を見る。
月明かりが彼女の顔に降り注ぎ、その碧い目に淡い影を落としてる。
あの不死者の言葉を思い出す。
「あんたも、一条煌の『大義』ってやつに騙された一人に過ぎない。」
「これがあんたの守りたかった人間か?」
駒。
自分は本当にただの駒なのか?
彼女は人間を守ってきた。十二歳の時から、一度も疑ったことはなかった。人間は守られるべきだ。魔族は脅威だ。聖光は正義だ——そういう信念が、彼女を数えきれない戦場で支えてきた。
でも今、その信念が揺らぎ始めてる。
何か大きな理屈のせいじゃない。
ただ、あの不死者が生死の境で彼女を守ることを選んだからだ。
敵が。
彼女を守った。
なのに、彼女の部下——彼女が自ら鍛え上げた兵士たち——は彼女を殺そうとした。
「私は、一体……」
拳を握りしめる。
「誰のために戦ってる?」
誰も答えない。
窓の外の月明かりが静かに降り注ぐ。まるで彼女の迷いを嘲笑うみたいに。
目を閉じる。深く息を吸い込む。
そして目を開ける。振り返って机の方に歩く。
ペンを取る。紙に一行書き記す。
「本日より、アイゼンベルク大公国は聖光同盟を脱退する。」
自分の印を押す。
明日、この手紙は聖光教会に届くだろう。
明日、彼女は世界中の敵になる。
でも、それが何だ?
彼女はあの不死者に命を救われた。
クラウディア・フォン・アイゼンベルクは、借りを決して返さずにはいられない女だ。
窓の外の月は相変わらずだ。でも、彼女の目はもう迷ってなかった。




