逆転
その後の戦いは、まったく、別物だった。
もう、彼女の攻撃を、避けなかった。逃げなかった。彼女が、一太刀、浴びせれば、私は、一発、殴り返す。彼女の聖光が、私を、焼けば、私の死霊の力が、彼女を、蝕む。
まるで、二匹の野獣みたいに、この荒野で、殺し合った。
周りの兵士たちは、とっくに、遠くまで、退がってた。恐怖の表情で、この戦いを、見てる。
どれくらい、経ったか、わからない——一時間か、それとも、一瞬か——私たちは、同時に、手を、止めた。
彼女は、片膝を、ついた。剣を、杖代わりに、体を、支えて、ぜいぜい、息を、してる。銀白色の鎧は、ひび割れだらけ。金色の血が、傷口から、にじんでる。
私は、立ってた。でも、やっと、立ってるだけだ。体中、十数か所、傷がある。一番深いのは、左肩から、右腰まで、届いてるやつで、中から、骨が、見えそうだった。
「あんたの、勝ちだ。」彼女が言う。
首を、振る。
「引き分けだ。」
顔を、上げる。私を見る。
その碧い目に、初めて、複雑な感情が、浮かんだ。
「なぜ、殺さない?」
「必要ない。」
「私たちは、敵だ。」
「だから、何だ?」
振り返って、立ち去ろうとする。
二歩、歩いた、その時。後ろから、何かが、空気を、切る音が、聞こえた。
彼女じゃない。
別の方向からだ。
振り返る。三十本以上の矢が、兵士たちの方向から、飛んでくる。まっすぐ、クラウディアを、狙ってる。
彼女には、もう、避ける力は、ない。
くそ。
引き返す。彼女の前に、飛び込む。
矢が、体に、突き刺さった、その瞬間。後ろで、彼女の、叫ぶ声が、した。
「あんた」
胸に、刺さった、矢を、見る。それから、顔を、上げて、矢を、放った兵士たちを、見る。
彼らは、普通の兵士と、同じ鎧を、着てる。でも、表情が、違う。あれは、熱狂的な、表情だ。まるで、神聖な使命を、果たしてるみたいな、顔。
「公爵様が、魔物に、惑わされてる!」
「魔物を、殺せ!公爵様を、救え!」
「聖光に、栄光あれ!」
彼らは、もう一波、矢を、放った。
体を、向ける。彼女を、かばうように、背中の骨の翼を、広げて、すべての矢を、防ぐ。
矢が、背中に、突き刺さる。
一本、二本、三本……十七本。
私の血が、彼女の顔に、滴る。
「なぜだ?」
彼女の声が、震えてる。
「なぜ、私を、助ける?」
「私たちは、敵だ!」
「さっきまで、私は、あんたを、殺そうとしてたんだぞ!」
振り返る。彼女を見る。
彼女の顔に浮かんでる表情は、見たことがなかった。
あの、「鉄血女公爵」って、呼ばれる女。あの、一度も、負けたことのない、伝説の武将が、今は、まるで、傷ついた、幼い獣みたいに、目に、迷いと、恐怖を、浮かべてる。
傷ついたから、じゃない。
彼女には、理解できないからだ。
「だって」
胸の傷を、押さえる。指の間から、黒い血が、あふれ出る。
「あんたも、一条煌の『大義』ってやつに、騙された、一人に、過ぎないからだ。」
彼女は、驚いた。
唇が、動いた。でも、声に、ならない。
「あの矢を、射った連中は。」あの、まだ、突進してくる兵士たちを、見る。「あんたの、部下だろ?あいつら、あんたを、殺そうとしてる。なぜだ?『公爵様が、魔物に、惑わされてる』——それが、あいつらの、自分に、言い聞かせる、理由だ。でも、本当は、手柄が、欲しいだけだ。あんたを、殺して、私も、殺せば、帰って、褒美が、もらえる。」
体を、向ける。兵士たちと、向き合う。
「これが、あんたの、守りたかった、人間か?」
もう、何も、言わない。ただ、手を、上げる。
地面が、裂ける。無数の死体の骨が、地中から、湧き出る。兵士たちに、襲いかかる。
悲鳴が、上がった。すぐに、消えた。
すべてが、静かになってから、振り返る。彼女を見る。
彼女は、まだ、そこに、ひざまずいてた。動かない。
「よく、考えろ。」言った。「あんたは、いったい、誰のために、戦ってるのか。なぜ、戦ってるのか、を。」
振り返って、立ち去る。
数歩、歩いた、その時。後ろから、彼女の声が、した。
「あんたの、名前は?」
足を、止める。
「佐々木すみれ。」
「すみれ……」
彼女は、私の名前を、つぶやく。とても、小さな声で。
「覚えておく。」
歩き続ける。もう、振り返らなかった。




