リリィの再来
その夜、リリィが、直接、やって来た。
突然、部屋の窓に、現れた。まるで、猫みたいに、そこに、しゃがんでる。碧い目が、闇の中で、キラキラ、光ってる。
「やっほー。」
「どうやって、入ってきたの?」
「入りたいから、入っただけよ。」窓から、飛び降りる。裸足で、床に、立つ。「ルシファー君の結界なんて、あたしには、効かないからね。」
さすが、数千年、生きてる、古の怪物。
ベッドまで、歩いてきて、遠慮なく、寝転がる。「ふーん、あんたのベッド、なかなか、いい感じ。」
「あんた、私のベッドに、寝るために、来たの?」
「そんなわけ、ないでしょ。」ゴロリと、寝返りを、うつ。私を見る。「あんたの考えを、聞きに来たのよ。」
「何を?」
「一条煌よ。」彼女が言う。「あの男が、自分の手で、お前を、浄化するって、言ったのを、どう思う?」
「別に、何とも、思わない。」
「嘘ね。」起き上がって、私の額を、ツンツン、つつく。「その顔、明らかに、考えてる顔だわ。」
おでこを、押さえて、にらむ。
彼女は、笑った。その笑顔には、いつもの、ずる賢さは、なくて、代わりに、変な、優しさが、あった。
「すみれちゃん。」
彼女が、私の名前を、呼ぶ。
「あんた、まだ、あの男のこと、愛してるの?」
心臓が——もう、動いてないけど——一瞬、止まった気がした。
「愛してない。」
答えは、速かった。
「速すぎ。」彼女が言う。「速い答えは、だいたい、嘘よ。」
黙る。
「当ててあげようか?」頬杖を、つく。「あんたは、あの男を、死ぬほど、恨んでる。でも、あの男のことを、思い出すたびに、心が、痛むんでしょ。まだ、愛してるから、じゃない。その痛みが、自分が、本当に、愛してたってことの、証拠だからよ。」
図星だった。
私は、本当に、一条煌を、愛してた。
二年間の、片想い。二年間の、ときめき。二年間の、こっそり、彼を見つめる、日々。
食堂で、彼の横顔を、見るたびに、心臓が、どきどきした。図書館で、彼が借りた本を、借りるたびに、こっそり、笑った。日直の日は、わざと、遅くまで、残って、もっと、彼を見ていたかった。
あれは、全部、本当だった。
最後に、裏切りで、終わったけど、あの、ときめいた瞬間も、本当だった。
「痛むのは、いいことよ。」リリィが言う。
「なぜ?」
「だって、痛むってことは、あんたに、まだ、心が、あるってことだから。」私を見る。「もし、いつか、痛まなくなったら、その時、あんたは、本当の、化け物に、なるのよ。」
立ち上がる。窓辺に、歩く。
「だから、痛がりなさい。痛がって、生きなさい。そして」
振り返る。
「強くなりなさい。あの男が、後悔するくらい、強く。」
窓に、飛び乗る。夜の闇に、消えた。




