ルシファーのヤキモチ
その夜、私は、部屋で、ぼんやり、してた。
ドアが、開く。ルシファーが、入ってきた。
「何を、考えてる?」
「一条煌のこと。」
彼の足が、ちょっと、止まった。
「あいつの、何を?」
「なんで、あんなこと、言ったのかな、って。」
ルシファーは、私のところに、来た。ベッドの端に、腰を、下ろす。
「お前は、どう思う?」
「私が、思うに……」言葉を、選びながら、言う。「あの人、自分を、騙してるんじゃないかなって。あんな、残酷なことを、しといて、何か、『偉大な』理由を、見つけなきゃ、自分が、耐えられないんだよ。だから、生贄を、『愛』って、言い換えて、浄化を、『救い』って、言い換えてるんだ。そうすれば、自分は、正しいんだって、思えて、安心して、聖王を、続けられる。」
ルシファーは、私を見る。その目に、かすかな、称賛の色が、浮かぶ。
「なかなか、いい分析だ。」
「でも」
言葉を、切る。
「もし、あの人が、本当に、それを、信じてるなら、あの人は、ただの、悪人じゃない。完全に、狂ってるんだ。」
「狂人は、悪人より、タチが悪い。」ルシファーが言う。「悪人は、自分が、悪いことを、してると、わかってる。だから、迷いもあるし、隙もある。でも、狂人は、自分が、正しいことを、してると、信じてる。だから、全力で、来る。隙なんて、ない。」
黙る。
「怖いか?」
彼が、訊く。
考えた。で、首を、振る。
「怖くない。」
「なぜ?」
「だって」
彼の方を、向く。
「あんたが、いるから。」
ルシファーは、驚いた。
その、血のように赤い目に、一瞬、何か、わからない感情が、走った。
で、彼は、笑った。
「そんなこと、簡単に、言うな。」
「どうして?」
「だって」
顔を、近づける。
「本気に、するから。」
彼の息が、耳元で、感じられる。温かくて、ちょっと、危険な感じ。
私の顔が、急に、熱くなった。
「わ、私、事実を、言っただけ!」
「事実でも、ダメだ。」
声が、低くなる。
「そういう言葉は、俺だけに、言え。」
「あんただけに、言ったじゃん!」
「なら、いい。」
体を、起こす。満足そうに、うなずく。
やっと、気づいた——
あれ?私、これって、嵌められた?
「そうだ。」急に、彼が言う。「あのメール、本当に、全部、消したんだな?」
「スマホ、なくなったって、言ったでしょ!」
「じゃあ、バックアップは?クラウドとか?」
なんで、クラウドまで、知ってるんだよ?
「その顔、あるって、顔だな。」彼が、立ち上がる。「バックアップも、消せ。」
「バックアップなんて、ない!」
「信じない。」
「本当だって!」
「じゃあ、今から、人間界に、行って、一条煌に、確かめてくる。」
「正気か、お前!?」
「うん、正気じゃない。」
ドアのところまで、行って、振り返る。
「でも——お前のせいで、な。」
ドアが、閉まった。
その場に、立ったまま、しばらく、口が、きけなかった。
この魔王、いつ、こんな、甘い言葉を、覚えたんだ?
窓の外には、三つの月が、不気味な光を、放ってる。
急に、あることを、思い出した——
さっき、あの人、一条煌に、確かめに行くって、言ってなかったか?
まさか、本当に、行くんじゃ
行かないよな……たぶん
次の日の朝。食堂で、ルシファーに、会った。
彼は、優雅に、朝食を、食べてる。まるで、何も、なかったみたいに。
ほっ、とした。
「昨夜は、よく、眠れたか?」彼が、訊く。
「まあまあ。」
「なら、いい。」
フォークとナイフを、置く。私を見る。
「そうだ、もう、人間界に、人を、遣わした。」
「げほっ、げほっ」
パンが、喉に、詰まった。
「な、何を、しに?」
「バックアップを、消しに。」
「バックアップなんて、ないって!」
「なら、確認しに、行ったまでだ。」
紅茶を、手に取る。一口、含む。表情は、平々凡々。
「もし、バックアップが、見つかったら」
私を見る。
「お前の、スマホ会社、買収して、潰すから。」
この男、絶対に、冗談じゃない。
決めた。これから、二度と、一条煌の話は、しない。
少なくとも——彼の前では。




