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笑っちゃった

私は、その場に、立ったまま、しばらく、口が、きけなかった。


周りの人は、みんな、私を見てる。表情は、いろいろ——同情、心配、好奇心、それから、何人かは、明らかに、笑いを、こらえてる。


「あの……」ベルゼブブが、おそるおそる、口を開く。「大丈夫、か?」


口を、開きかけた。何か、言おうとした。でも、言葉が、出る前に——


「ぷっ。」


笑っちゃった。


苦笑いじゃない。冷笑でもない。完全に、止められない、心の底から、笑いが、こみ上げてきた。


「あははははは」


腰を、折って、笑った。涙が、出るくらい。


周りの人は、完全に、あ然としてる。


「すみれちゃん?」アスモデウスが、心配そうに、手を、伸ばす。「大丈夫?ショック、大きすぎたんじゃない?」


「違う……あはははは……ちょっと待って……笑い終わらせて……あはははは……」


お腹を、抱えて、笑う。腰が、曲がって、伸びない。


「あの人……あの人、私のこと、愛してるんだって……あはは……知ってる?あの人が、今まで、私に、どう、話しかけてたか?『あ』『うん』『わかった』——この三つだけ!多くて、『はい』が、一つ増えるくらい!なのに、今、あんなに、長い文章、喋れるんだ!しかも、『一番愛する人』!『心が血を流してた』!あはは、笑える、笑いすぎて、死にそう!」


笑いが、止まらない。


「あの人ね、ある時、図書館で、偶然、会ってさ、勇気を、振り絞って、挨拶したら、『うん』って、言って、そのまま、行っちゃったんだよ!行っちゃった!チラッとも、私のこと、見ないで!なのに、今、『ずっと、君を、観察してた』ですって?何を、観察してたの?私が、毎日、どうやって、あいつの前を、通り過ぎるふり、してたか、ってこと?」


「それからね、ある時、宿題のことで、メール、送ったら、返事が、『あ』だったの。『あ』だけ!句読点も、なし!なのに、今、『君は、私が、思ってたより、ずっと、強くて、ずっと、美しい』ですって?誰が、書いたの、この台本?出来すぎでしょ!」


笑いすぎて、涙が、出てくる。


周りの人も、やっと、状況を、飲み込んだみたいで、一緒に、笑い出した。


「聖王様って、あんな、ツンデレだったんだ!」ベルゼブブが、体中の肉を、揺らして、笑う。


「女の子に、『あ』とか『うん』しか、返事しといて、それから、竜に、生贄に捧げて、『愛してる』って?それ、どういう、作戦?」アスモデウスが、前後に、揺れて、笑う。


「人間の恋愛、本当に、複雑。」ベルフェゴールが、珍しく、口を開く。その口調は、まったく、理解できない、って感じ。


笑って、笑って、笑って——急に、一つの視線を、感じた。


振り向く。ルシファーが、いつの間にか、私の後ろに、立ってた。


彼の表情

なんていうか、複雑だった。


「随分、楽しそうに、笑ってるじゃないか。」彼は言った。口調は、平々凡々。


「ま、まあね。」笑いすぎて、出た涙を、拭う。


「あの男は、お前に、『あ』とか『うん』とか、しか、返事しなかったんだな?」


「そうそう。」


「お前、まだ、あいつのメール、取ってあるのか?」


空気が、急に、静かになった。やっと、自分が、何を、言ったか、気づいた。


「あ、あの……その……」


「まだ、取ってあるんだな。」ルシファーが、繰り返す。今度は、疑問じゃない。断定だ。


彼の目つきが、危険なものに、変わった。


「どれくらい、前のメールだ?」


「あ、あんまり……前じゃないよ……学校に、通ってた頃の……」


「何通、ある?」


「そんなに、ないよ……」


「具体的な、数字は?」


「三……三十通、くらい?」


ルシファーの目が、細くなった。


「三十通。一通一通、『あ』とか『うん』とか、しか、書いてない、と。」その口調は、氷みたいに、冷たい。「お前、一通も、消してないのか。」


「だ、だって、消すの、面倒くさかったんだもん!スマホのメモリ、余裕あったし!」


「ふうん、そうか?」


彼が、一歩、前に、出る。私が、一歩、後ろに、下がる。


「で、今は?まだ、取ってあるのか?」


「たぶん……まだ、ある、かな……」


「たぶん?」


また、一歩、前に、出る。後ろは、壁だ。ぶつかった。


「出せ。」


「え?」


「スマホ。出せ。」


「スマホなんて、とっくに、ないよ!竜に、食べられた時、一緒に、なくなったもん!」


ルシファーは、足を、止めた。三秒間、じっと、私を見る。


で、表情が、ちょっと、和らいだ。


「なら、いい。」


ほっ、とした。


「でも」


また、口を、開く。


「もし、まだ、あいつの何かを、取ってあるのが、見つかったら」


耳元に、顔を、寄せる。


「お前のスマホ、俺が、喰うからな。」



魔王なの?食いしん坊なの?


四、世界の反応

あの宣戦布告は、魔界だけじゃなくて、異世界中に、伝わってた。


次の数日、いろんな情報が、魔界中に、飛び交った。


人間界は、大騒ぎだ。


「聖王様が、自ら、魔王を、討伐しに行かれるんだって!」

「聖王様、なんと、魔物に、恋してたんだって!何て、素敵な、ロマンス!」

「その魔物、昔は、人間だったんだって。聖王様に、生贄に、捧げられて、不死者に、なったんだって。」

「生贄?それって、殺人じゃない?」

「何、言ってるの!それは、あの娘を、生まれ変わらせるためなんだよ!聖王様が、『愛してるから、そうした』って、おっしゃってたんだから!」

「なるほど!さすが、聖王様!偉大だ!」


これらの噂を、聞きながら、私の表情は、複雑だった。


「あの人たち、あれを、正しいと、思ってるの?」


「人間の信仰って、元々、歪んでるんだよね。」アスモデウスが、私の肖像画を、描きながら、言う。「聖光教会が、こうだって、言えば、みんな、それを、信じるんだよ。一条煌は、今や、聖王だ。彼の言葉が、真理なんだ。」


「じゃあ、生贄に、された人たちは?もし、自分たちが、生贄に、されたら、そんなに、冷静で、いられるか、考えないの?」


「人間は、考えないよ。」アスモデウスが、肩を、すくめる。「自分が、犠牲に、ならなきゃ、みんな、平気で、加害者を、褒めたたえるんだ。」


黙った。


魔界の反応は、まったく、別物だった。


「あの聖王、頭、おかしいんじゃね?」

「生贄に、しといて、愛してる?どこの、ど変態だよ?」

「人間って、みんな、あんなに、歪んでるの?」

「みんな、って、言うなよ。ここには、元人間も、いるんだから。」

「あ、そうか。ベルゼブブ、お前も、昔、あんなに、歪んでたのか?」

「うるせえ!」


ベルゼブブが、怒って、その魔族を、城の中、追いかけ回した。


七大罪の幹部たちの、反応も、それぞれだ。


「面白い。」サマエルが、珍しく、口を開いた。「あの聖王の執念、『傲慢』の幹部に、なる資格が、ある。」


「あの人、もう、聖王じゃないですか?」私が、訊く。


「聖王は、ただの、肩書きだ。」サマエルが言う。「執念こそが、本質だ。あいつの執念は、お前が、思うより、深い。」


リリィからも、伝言が、届いた。


「あの坊や、面白いわね。」伝訊水晶の中で、彼女は、悪びれもせず、笑ってる。「自分を、騙してるのに、その嘘を、自分で、信じちゃってる。ああいう、歪んだ愛って、一番、見てて、面白いのよ。あたしが、ちょっと、からかって、あげようか?」

「結構です。」断った。

「残念。あの子が、騙されてたって、気づいた時の、表情、見たかったのに。」


伝訊を、切ろうとして、急に、付け加えた。


「そうだ、すみれちゃん。」


「何?」


「一条煌が、どうして、あんたを、選んだか、知ってる?」


心臓が、どきんと、跳ねた。


「あんたが、普通だったから、じゃない。」彼女の笑顔が、少し、引っ込んだ。「あんたの魂が、千年前の、あの娘と、そっくりだからだよ。」


「千年前?」


「聖処女。」リリィの声が、ぼんやりと、遠くなる。「千年前にも、一人の娘が、聖王に、『愛』の名の下に、生贄に、されたんだ。その娘の魂は、消えずに、何代も、何代も、生まれ変わって、待ってたんだ」


言葉を、切る。


「何を、待ってたの?」


「真実が、明らかに、なる日を。」リリィが言う。「あの聖王は、ただ、生贄に、しただけじゃない。あの娘の魂の中に、何かを、埋め込んだんだ。でも、それが、何かは、あたしにも、わからない。答えを、見つけられるのは、あんた自身だけだ。」


伝訊水晶が、暗くなった。


その場に、立ったまま、長い間、動けなかった。


生まれ変わり?

埋め込まれた、何か?

一条煌が、私を、選んだのは、私が、「たまたま、条件に、合ってた、普通の娘」だったからじゃない——


最初から、選ばれてたから?


窓の外から、月明かりが、差し込む。紫色で、冷たい。


急に、思い出した。あの夜、ベルゼブブが、言ってた言葉。


「すみれちゃん、あんたが、選ばれたのは、偶然じゃないかも、しれない。」


偶然じゃ、ない。


じゃあ、何だ?


わからない。


でも、わかったことが、一つある。今からは、もう、自分を、「ただの、かわいそうな被害者」って、思うのは、やめよう、ってことだ。


私は、もっと、古い、何かの、一部なんだ。


そして、それを、突き止めなきゃ、いけない。


一条煌は、本当に、自分が、私を、愛してると、信じてるのか?


それとも、ただ、自分の行動の、言い訳を、探してるだけなのか?


わからない。


でも、わかることが、一つ。彼が、私を、愛してようが、愛してまいが、彼は、私を、殺しに来るってことだ。


それで、十分だ。

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