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千年の孤独

その夜、私は、自分の部屋には、戻らなかった。


ルシファーが、「お前は、俺の家族だ」って、言った後、彼は、自分の部屋に、帰ってしまった。でも、私は、塔の上に、立ったまま、三つの月を、見てた。頭の中では、彼の言葉が、ずっと、響いてる。


「俺も、一度だけ、憧れたことが、ある——人間に、なりたいって。」


その言葉が、棘のように、心に、刺さった。


振り返って、塔を、降りる。彼の部屋の前に、来た。


鍵は、かかってなかった。


そっと、ドアを、開ける。彼は、窓辺に、立ってた。背中を、向けて。


「眠れないのか?」


振り返らない。でも、私だって、わかってる。


「うん。」中に、入る。彼の後ろで、止まる。「あんたも、寝てないね。」


「魔王に、そんなに、睡眠は、必要ない。」


振り返る。私を見る。窓から、月明かりが、差し込んで、彼の顔に、淡い影を、落としてる。


「何か、用か?」


ちょっと、迷った。でも、口を開く。


「さっき、人間に、なりたいって、憧れたことが、あるって、言ってたよね。それ、どうして?」


長い間、黙ってた。


もう、答えは、もらえないかも、しれない。そう、思った、その時。


彼は、口を開いた。


「孤独だからだ。」


その声は、とても、小さかった。誰かに、聞かれたら、困るみたいに。


「俺は、生まれついての、魔族だ。生まれた時から、『傲慢』の君主だ。最強の力、最大の領土、最多の臣民——それらは、全部、持ってる。でも、俺は、知らないんだ。対等に、愛されるって、どんな気持ちか、ってことを。」


窓辺に、戻る。窓の外の、月を、見る。


「魔族の忠誠は、俺が、強いからだ。幹部の追従は、俺が、利益を、もたらすからだ。人間の恐怖は、俺が、魔王だからだ。誰もが、俺を見る目は、見上げる目、畏れる目、恐れる目——対等な目だけが、ないんだ。」


「だから、人間に、なりたいって、思ったの?」


「人間は、対等に、愛し合う。」彼は言う。「人間は、『好きだ』って、言われただけで、胸が、ときめく。抱きしめられただけで、顔が、赤くなる。誰かを、守るために、自分を、犠牲にする。そういうのを」


少し、間を、置いた。


「俺は、全部、したことが、ないんだ。」


彼の隣に、行く。一緒に、月を、見る。


「じゃあ、今は?」


横を、向く。彼を見る。


「今?」


「さっき、私のこと、家族だって、言ったよね。」彼の目を、見る。「それって、どうなの?」


彼は、答えなかった。


でも、月明かりの下で、彼の耳が、ゆっくり、赤くなるのが、見えた。


「なってる。」


長い沈黙の後、やっと、絞り出した、一言。


私は、笑った。


「それで、十分じゃん。」


彼は、私を見る。複雑な目で。


「お前は、俺を、怖がらないのか?」


「何を、怖がるの?」


「俺は、魔王だ。最強の存在だ。数えきれないほど、人を、殺してきた。」


「私も、殺したよ。」私が言う。「混沌魔竜を、殺した。人間の兵士も、殺した。目覚めた時は、一条煌も、殺しかけたしね。お互い様でしょ。」


彼は、ちょっと、驚いた顔をした。


で、彼は、笑った。


その笑顔は、いつもと、違った。


からかうような笑顔でも、危険な笑顔でも、ない。ただ——


ほっとした、笑顔。


「そうだな。」


手を、伸ばす。優しく、私の頭を、撫でる。


「ありがとう。」


「何に、ありがとう?」


「お前が、俺を、魔王としてじゃなく、見てくれること。」


彼を見る。


月明かりの下の彼からは、いつもの、傲慢さが、消えてた。代わりに、ただ、深い疲れと——


弱さが、あった。


その瞬間、わかったんだ。


この男の、千年の孤独は、私が、思ってたより、ずっと、深いってことを。


「ルシファー。」


「ん?」


「これからは、一人じゃないよ。」


彼は、驚いた。で、私を、抱きしめた。


「バカ……」


その声が、頭上から、聞こえる。かすかに、震えてる。


「そんなこと、簡単に、言うな。」


「どうして?」


「だって」


少し、間を、置いた。


「本気に、するから。」


彼の胸に、寄り添う。心臓の音が、聞こえる。


どくん、どくん、どくん。

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